愛憎渦巻く世界にて
ガチャ
神様は有給休暇でも取っていたらしく、地下牢のドアは難なく開いた……。ドアの前には、ゲルマニアが立っている……。
「……あ……ああ……」
マリアンヌは、変な声を発しながら後ずさる……。今にも狂いそうだ……。
ゲルマニアは地下牢に入るとドアを閉め、マリアンヌに向かって、ゆっくりと歩き出した。地下牢にいるのはマリアンヌとゲルマニアだけだったが、マリアンヌには死神がたくさんいるように感じた……。
「マリアンヌ姫、安心しろ! 私はあなたを殺しにきたわけではない!」
ゲルマニアが強くそう言ったが、発狂寸前のマリアンヌの耳に言葉は届いていなかった……。
「……ああ……あ……」
マリアンヌは、死の恐怖で、とうとう小便を漏らしてしまった……。黄色い水たまりがマリアンヌの足元に広がる……。
ガチャン!!! ガチャン!!!
この近所迷惑な金属音は、ゲルマニアが自分の武器を投げ捨てた音だった……。剣とナイフが、マリアンヌの足元の水たまり近くに転がる。
「これで安心できたか!?」
ゲルマニアがまた強く言うと、今度はマリアンヌの耳に言葉が届いたようだ。マリアンヌは、死の恐怖から解放されるとすぐに泣きだした……。
ゲルマニアは、マリアンヌに近寄ると、自分の両手を彼女の肩に置き、なだめた。
「シャルルという男から、これを渡してくれと頼まれた」
マリアンヌが落ち着いたころ、ゲルマニアは彼女に、シャルルから預っていたティアラを渡した。
「え? シャルル様から?」
「そうだ。奴は今、この城に隠れている」
ゲルマニアは小声でそう言うと、マリアンヌに耳を貸すよう合図した。見張りの2人の兵士が立ち聞きしているかもしれないからだ。ゲルマニアがマリアンヌに伝えるのは、マリアンヌを逃す作戦だ。
「でも、それって、運次第じゃあ?」
全部聞き終わった後、マリアンヌが不安気に言った。よほど、危険な作戦のようだ……。
「運も実力のうちだ。それに、他に方法が無いのだ」
ゲルマニアがそう言うと、マリアンヌは渋々納得した。