愛憎渦巻く世界にて
「明日の未明、死刑執行人がここにある処刑道具を取りにくる」
口の周りを拭いて落ち着いたシャルルに、ゲルマニアが言う。彼女が指さしたところに、大きな斧があり、斧の刃は血の塩分により錆びていた……。
「その死刑執行人を殺せ。うまく隙をつけば、おまえでも倒せるだろう」
「その後はどうするんですか?」
「そいつになりすませて、死刑場まで来い。そして、私の合図とともに騒ぎを起こせ。その騒ぎに乗じて、私がなんとかする」
「……どんな合図ですか?」
「胸で十字を切る。見逃すなよ」
「わかりました」
「チャンスは一度きりだぞ。失敗するな」
「大丈夫です!」
シャルルが自信を持ってそう言ったので、ゲルマニアは安心した様子だった。
「では、また明日。今から、マリアンヌ姫に話をしてくる。おまえのことも伝えておいてやろう」
ゲルマニアは、拷問室から普通の廊下へのドアに向かった。
「あの、マリアンヌ様に渡してもらいたい物があるんです」
シャルルが立ち去ろうとしたゲルマニアに言った。彼女は足を止め、振り向いた。
「これを預っていたので」
シャルルはポケットから、マリアンヌのティアラを取り出し、ゲルマニアにそれを手渡した。
「ああ、彼女のティアラか。わかった、返しておこう」
ゲルマニアは、ティアラをポケットの中にしっかりしまうと、部屋から出ていった。外から、鍵を閉める音が聞こえてくる。
「さて、どこに隠れようかな?」
ゲルマニアが立ち去った後、シャルルは、早朝までどこに隠れているかを考えた。準備をしにやって来た死刑執行人に不意打ちを喰らわせるのだ。恐ろしい拷問器具が並ぶ拷問室に一人ぼっちだが、彼は頑張って耐えていた。
「……ここにするか」
しばらく見回した後で、死刑用の斧の影に隠れていることにした。ここなら、必ず死刑執行人が来るからだ。しかし、隠れるには、血で汚れた床に寝転がるしかなかったので、彼は躊躇していた……。
しかし、彼は、我慢するんだと自分に言い聞かせると、寝転がった。彼はそこで早朝まで待つことにした。
「……眠い」
だが、激しい睡魔が彼を襲った。疲労がたまっていたので当然といえた。彼は顔を叩いたりして、睡魔の猛攻に耐えていたが、やがて、深い眠りについてしまった……。