愛憎渦巻く世界にて
ドアのすぐ向こうは上り階段だった。シャルルは、また階段かと少し嫌になったが、ゲルマニアがどんどん階段を上っていくので、彼も階段を上がり始める。
「あの」
「静かに」
シャルルが喋り出そうとすると、ゲルマニアが素早くそう言った。どうやら、やっと王城についたようだ。
階段を上った先にあったのは、石壁だけだったが、隠し扉になっていることは、すぐにわかった。石壁の一部に取っ手がついていたのだ。
ゲルマニアは、石壁に耳を当て、石壁の向こう側に誰かいないかを確認していた。しばらくしてから彼女は、
ゴゴゴッ
石壁を少しだけ横にスライドさせ、向こう側の様子を見ていた。そして、安全が確認できたらしく、石壁を一気に開けた。
「ウッ!」
先ほどとは違ったひどい匂いがした……。膿の匂いは無かったが、強烈な血の匂いだ。シャルルは、また鼻を押さえる。ゲルマニアが躊躇うことなく向こう側へ進むので、シャルルも進んだ。
しかし、シャルルをさらに驚かせたのが、その向こう側の部屋だった。
そこは拷問室だった……。松明に照らされたアイアンメイデンなどの拷問器具が、薄暗い部屋にいくつも置かれており、まるで拷問器具の展示会のようになっている……。おまけに、まだ水分が残っている血が、床にべっとりと残っていた。拷問器具だけでなく、壁や床や天井までもが、血を欲しているというようにさえ感じられる。
「もしかしてここは、拷問室というやつか?」
「……そうだ」
ゲルマニアは、あまり詳しく説明したくないという口調でそう言うと、石壁を閉める。シャルルは、恐怖で息苦しくなり、今にも吐きそうだ。
「大丈夫か? マリアンヌ姫は拷問自体されていないから、安心しろ」
ゲルマニアは気遣う口調でそう言ったが、
「オエエ!!!」
シャルルは我慢できずに吐いてしまった……。タカミ帝国大使館で食べたディナーを、血で汚れた床にぶちまける……。色とりどりのゲロと赤い血が混じり合い、不思議な色彩模様を表現していた……。
「……それは、ローストビーフだな? タカミ料理でうまい食べ物といえば、それぐらいしかなかったな」
ゲルマニアがゲロを覗きこんでからそう言うと、ポケットからハンカチを取り出し、シャルルに差し出した。
「あ…ありがとうございます」
シャルルは礼を言うと、ハンカチを受け取り、口の周りを拭いた。