愛憎渦巻く世界にて
おとなしくなった2人は何も喋らず、ただ気まずそうにしていた。礼拝堂の何十本ものロウソクが、静かにユラユラと燃えている。
ゲルマニアはシャルルを横目で見ながら、何かを考えていた。そして、決心した様子で、
「おまえが私を殺すのは無理な話だ。しかし、私を尾行することは無理なことではないな」
そう言うと、立ち上がった。
「え?」
シャルルは怪訝そうな表情で彼女の横顔を見る。
「今から、城への秘密の隠し通路を通るのに、これは困った」
彼女はわざとらしい独り言を言いながら、礼拝堂を歩き出した。
「あっ!」
彼は、彼女が協力してくれることに気づいたようで、
「あ…ありがとうございます!」
彼女に礼を言ったが、
「誰に礼を?」
彼女はそう言い捨てると、先ほどシャルルがいた物置のほうへ歩いていく。シャルルは、立ち上がり、ゲルマニアについていった。
物置に入ったゲルマニアは、数個のタルをてきぱきとどかし始めた。シャルルは手伝おうとしたが、下がっていろというオーラが、彼女から感じられたので、黙って突っ立っていた。
やがて、タルの移動が終わり、目の前にパッと見た限りでは何もない土壁が現れた。すると、ゲルマニアは、その壁と床のすき間に指を入れた。
「1、2の、3!」
ゲルマニアは、シャッターを開けるように壁を上げる。その薄い壁の向こうには、下り階段があった。
「おお!」
それほど重そうな壁ではなかったが、シャルルは思わず声を上げた。
「さて、わからないように、タルを元に戻さないとな」
上がった壁をつっかえ棒で止めてから、ゲルマニアがわざとらしい口調で言った。
「よしきた」
それを聞いたシャルルは、手伝ってほしいだなと、さっそく移動させたタルを元に戻そうとした。しかし、
「……お…重い……」
かなり重いらしく、タルを動かせなかった……。
「やれやれ」
ゲルマニアはため息をつくと、情けないシャルルを下り階段へ押しやり、タルをてきぱきと元に戻し始めた。
そして、タルは元に戻り、物置からこちらは見えないようになった。ゲルマニアはつっかえ棒を外し、ゆっくりと壁を下げていく。
壁が完全に閉まり切ると、物置から届く光は無くなり、真っ暗になった……。