愛憎渦巻く世界にて
ゲルマニアは城下町のある教会にいた。彼女はそこの告解室で、神父に話を聞いてもらっている。彼女はシンプルなドレス姿で、まだ少女であることが感じ取れる雰囲気を醸し出していた。
ちなみに、金魚のフン的な存在であるクルップはいなかった。たぶん、どこかで一杯やっているのだろう。
「明朝、私が捕まえた少女は死ぬことになります。王国のためとはいえ、私が殺したのも同然です」
ゲルマニアはうつむいた状態で元気が無い口調で言う。
「あなたはその殺生を止める努力をなさったのでしょう?」
木製の網窓の向こう側にいる神父が落ち着いた口調で問いかける。
「もちろんです。しかし、止められなかったのですから、努力をしなかったも同然です」
「あなたの努力を神は全て見ておられます。あなたが止められなかった殺生をした者は必ず罰を受けることでしょうが、あなたは救われることでしょう」
「……それを聞いて安心しました。それでは」
少し元気を取り戻したゲルマニアは、イスから立ち上がり、礼を述べた。そして、告解室から出ようとしたそのとき、
「ゲルマニア様。これは私個人の考えですが、次期国王にふさわしいのは貴女様であると思います。おそらく、他の神父たちも、私と同じ考えでしょう」
神父がおそるおそる言う。
「……今の言葉は聞かなかったことにしておきます」
ゲルマニアは振り返ることなく言うと、告解室から出ていった。
「主よ。どうか、ゲルマニア様をお救いください」
告解室で、神父が天を仰ぎながら呟いた……。
告解室から出たゲルマニアは、礼拝堂のイスに座っていたシャルルと目が合った……。彼女は彼を見た途端、スカートの中に隠してある護身用のナイフを抜こうとした。しかし、彼女は、自分が今いるのは聖域である教会だと思い出すと、ナイフを抜くのをやめた。また、素手でも無理なため、彼女は彼を捕まえることをあきらめ、彼と話をすることにした。どうせ、明日にはこの戦争は終わるのだからと考えたのだ。
ゲルマニアはシャルルのすぐ横に座る。その途端、シャルルは逃げようと立ち上がろうとしたのだが、彼の肩にはゲルマニアの手が置かれており、立ち上がれないようにしっかりと掴まれていた……。当然だが、彼は焦る……。
「……安心しろ。おまえを捕まえるのではない」
彼女はそう言ったものの、彼は彼女を疑いの目で見るだけだった。
「明日にはこの戦争が終わるのだ。ここで話をするぐらい別にいいだろう?」
そう言って、彼を落ち着かせようとしたが、逆効果だった……。
「マリアンヌ姫を殺すな!!!」
彼は大声で言い返した……。いきなりの大声に、彼女は思わず驚いたが、
「ここは教会だぞ。大きな声を出すな」
静かに注意する。だが、
「今、この場であんたを殺してもいいんだぞ?」
まだ落ち着いていない様子の彼は、無謀にも彼女を脅した……。
それを聞いた彼女は、目をパチクリさせた後で、
「おまえが私を殺す? ハハハハハハハハハハ!!!」
バカにした様子で、大きく笑い出した……。
「ほ…本気だぞ!!!」
彼は必死にそう言ったが、彼女の笑いは収まらない……。だが、
「教会ではお静かに!!!」
先ほどの神父が、事務所兼住居らしき部屋のドアを開け、顔だけ出して怒鳴ると、2人はようやくおとなしくなった……。