愛憎渦巻く世界にて
大使館を出たシャルルは、ゴーリ王城に向かって歩いていた。夜のため、酒場を除き、城下町の人影が少なかったため、敵国にいる彼に都合が良かった。しかも、夜なので暗く、ムチュー人独特の茶髪など、すぐ近くにまで来ないと判別できない。
そのため、シャルルは少し安心できたが、自分が尾行されていることに気づくと、すぐに恐怖心で全身が埋め尽くされた……。
2人の男に尾行されていることに気づいた彼は、大使館に戻ろうかと思ったが、逃げ帰ってきたとメアリーに笑われるかもしれない……。それが嫌な彼は、どうやって尾行を撒こうかと思考を巡らせた。
人が多い酒場に入り、他の出入口から出る中抜けの方法を考えたが、そこにいる人に気づかれる危険性があるのでやめた。また、流しの馬車に乗り、撒こうとも考えたが、ゴーリ王国の通貨や金目の物(マリアンヌのティアラを売るわけにはいかない。)を持っていないのでやめた。
そこでシャルルは、
「追いかけろ!!!」
路地裏に逃げ込み、ひたすら走り回って、行方をくらますことにした。彼を追いかける2人の尾行者。
彼は、狭い路地裏を必死に走り回る。灯りがほとんど無く、彼は何度も転んだり、壁にぶつかったりした……。しかも、シャルルはこの城下町の地理を全く知らないので、すぐに迷ってしまった。そして、とうとう行き止まりに来てしまった……。シャルルの後ろから、2人の尾行者の足音が響いてくる。
そこで彼は、行き止まりの近くにあったドアの1つのノブを回してみた。もしかすると、鍵がかかっていないかもしれないからだ。
カチャ
奇跡的にドアノブが回り、シャルルはドアを開けると中に飛びこんだ。そして、ドアの鍵を急いで閉めた。彼が逃げ込んだのは物置で、1本のロウソクが部屋を弱々しく照らしている。彼は部屋を見回すとすぐに、タルとタルとの間に隠れた。
ドアの向こうから、2人の尾行者の足音が聞こえてきたかと思うと止んだ。すぐに足音がまた聞こえてきたが、その足音はどんどん小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。どうやら、引き返してくれたようだ。
シャルルは、ほっと一安心すると、タルとタルとの間から出て、入ってきたドアとは別のドアへとおそるおそる移動する。そして、彼はドアを静かに少しだけ開け、すき間からドアの向こうを見た。そこで、彼はまた一安心でき、ドアを最後まで開ける。
ドアの向こうは、教会の礼拝堂で、ロウソクの光が静かに照らしていた。幸い、礼拝堂には誰もおらず、シャルルは長イスに座って休むことにした。この教会の近くにまだ、さっきの尾行者がいるかもしれないため、ここで待つという意味もある。
彼はぼんやりと、イエス像やほのかに照らされているステンドグラスを見ている。彼は心の中で、マリアンヌの無事を祈っていた……。
ガチャリ
そのとき、礼拝堂の隅にある告解室のドアが開いた。シャルルは、告解室から出てきた人の顔を見る。シャルルはその人と目が合ったのだが、その途端に、彼はここで休んでいたことを後悔した……。