愛憎渦巻く世界にて
「そんなに急がなくても、マリアンヌ姫は大丈夫だと思うぞ」
シャルルが運転する馬車は、戦争で荒れ果てた平野の道を爆走していた……。
マリアンヌを取り戻すことに、彼は真剣そのものだった。強い眼差しがそれを物語る。ウィリアムとメアリーは荷台で、激しい揺れに耐えていた。
「だって、いつ殺されてもおかしくないんだぞ!!!」
「彼女は王室騎士団に連行されているんだから、大丈夫だよ。あそこのリーダーは、見た目は怖いが、優しい心の持ち主だ。私みたいに」
「……ウィリアム様、笑わせないでください。舌を噛んでしまいます」
「止まれーーーーーーー!!!」
そのとき、馬車の前方から叫び声がした。シャルルは前方を見て、すぐに舌打ちをした。
前方にゴーリ王国の兵士が10人ぐらいおり、立ち塞がっている……。道の検問をしていたのだ。
「そのまま突破しろ!」
シャルルの後ろからそれを見たウィリアムが言う。
「言われなくても!!!」
シャルルはそう叫ぶと、馬をさらにスピードアップさせた。
シャルルたちを乗せた馬車は、立ち塞がる兵士たちをボウリングのピンのように跳ね飛ばす……。跳ね飛ばされた何人かは、変な方向に身体を折り曲げ、地面を転がっていく……。
怒った兵士たちが追いかけてきたが、猛スピードの馬車に追いついことはできなかった。矢も放たれたが、1本の矢が荷台の端に刺さっただけだ。
弓兵が次の矢を構えるより前に、シャルルたちの馬車は走り去っていった。
夕方になり、ゲルマニア一行は、ゴーリ王国の首都に到着した。
城門をくぐり、城下町に入ると、城下町の人々が歓迎で出迎えてくれた。先に早馬で帰った伝令が知らせたのだろう。
城下町中が歓喜に沸き返っていた。この戦争にもう勝てるのだから、当たり前だろう。
「ゴーリ王国万歳!!!」
「ゲルマニア様万歳!!!」
人々が口々に叫び、花が放り投げられたりする。
クルップたち騎士団のメンバーは嬉しそうだった。しかし、ゲルマニアとマリアンヌだけは平然としていた……。
「さっさと死ね!!!」
「なぜ殺さないんだ!!!」
そう叫んで、オリにいるマリアンヌに向けて石を投げつける輩もいた。マリアンヌが「キャ」と言う。すると、ゲルマニアは、
「やめろ!!!」
そう叫び、石を投げつけるのをやめさせたが、その輩はキョトンとしていた……。
その途端、その場はいくらか冷めた……。クルップはやれやれといった感じで、ゲルマニアを見ていた……。