小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

愛憎渦巻く世界にて

INDEX|42ページ/284ページ|

次のページ前のページ
 


 メアリーは、破裂したボールを持っている子供をウィリアムの元に連れてきた。メアリーは子供を、逃げられないようにしっかりと掴んでいる……。
「これでも思い出せませんか?」
ウィリアムは、また弓を構えて、矢の先端の目の前に子供の顔を突きつけた。発射されれば頭部を貫通して、子供は死ぬだろう……。

「……わかった!!! すべて説明する!!!」

村長はあきらめた様子だった。
「よし、説明しろ!」
ウィリアムはそう言ったが、弓は構えたままだ。
「以前から、我々はこの村を守るために、ゴーリ王国と取引をしているんだ。そのおかげで、この村は平和だ」
「なるほど。だから、自国の姫君であるマリアンヌ姫をゴーリ王国に売ったのだな?」
「そうだ。間違いなく、我々は裏切り者だ。しかし、先祖代々のこの村を戦火で失うわけにはいかなかったのだ!」
「それで、姫はどこだ?」
「ゴーリ王国の王室騎士団の連中が、あっちの方向へ連れ去っていったよ」
村長が村の外へ続く道を指さした。
「よし、それで十分だ」
ウィリアムはそう言うと弓矢をしまい、服のポケットから金貨を1枚取り出し、
「これで、新しいボールを買いなさい」
そう言うと、子供の服のポケットに入れた。
「メアリー、放してやれ」
「はい」
メアリーが放すと、子供は一目散に逃げていく。その子供は、買い物を済ませたばかりのシャルルの横を通り過ぎていく。
「何かあったのか?」
ウィリアムたちの元にきたシャルルが怪訝そうに尋ねた。買い物に集中していたらしく、今の広場での一部始終を知らないようだ。
「いや、なんでもない」
ウィリアムは平然とそう言うと歩き出し、メアリーが彼の後に続く。
「どこに行くんだ?」
「村長に、マリアンヌさんがどこに行ったのかを聞けた。早く追いかけるぞ」
シャルルは村長を見る。村長は肩を震わせて、うつむいていた……。何かあったことぐらい、誰の目にも明白だ。
 シャルルは、「やっぱり何かあったんだな」と呟くと、馬屋へ向かうウィリアムとメアリーを追いかけていく。



 そのころ、ゲルマニアたち王室騎士団は、マリアンヌをゴーリ王国の王城へと連行していた。彼女は、帰る途中で合流した馬車にある大きなオリの中にいた。
 彼女は起きており、もうすぐ死ぬのだと思いながら、空を弱々しく見上げていた……。

「なぜ殺さないんで?」
先頭のゲルマニアのすぐ横にいるクルップが、ゲルマニアに尋ねた。
「マリアンヌ姫を殺さずに戦争を終わらせ、我が国の大義を実現する!」
ゲルマニアはハッキリとそう言った。クルップは首をひねり、
「しかし、どうやって?」
「姫の命と引き換えに、我が国がタカミ帝国と同盟を結ぶことをムチュー王国に認めさせるのだ!」
「ああ、なるほど。しかし、うまくいきますかね?」
「…………」
彼女は無言で彼を睨む。彼はビビり、口を固く閉じた……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん