愛憎渦巻く世界にて
部屋を出た3人が向かったのは食堂だ。もちろん朝飯を食べにきたのではなく、マリアンヌを見つける手がかりがないかを探すためだ。
「あっ、マリアンヌ様のティアラだ」
シャルルがテーブルの下に落ちていたティアラを拾い上げた。ティアラには、ムチュー王室の紋章が刻まれていた。しかし、持ち主であるマリアンヌがどこに連れていかれたのかはわからなかった。
「朝食ですか?」
そのとき、食堂に来た宿屋の主人が言った。主人の動きはどこかぎこちなかった……。
「主人、村長はどこだ?」
ウィリアムは主人に尋ねる。主人はギクリとしてから、
「そ…村長なら、広場にいると思いますが」
そう返事をした。ウィリアムはシャルルにこう言った。
「シャルル。今すぐ、水と食糧を買ってこい」
シャルルは首をかしげたが、言うとおりにすることにした。
「村長!」
ウィリアムが広場にいた村長を呼んだ。村長は、ゆっくりとウィリアムのほうを向いた。
「ああ、昨日の夜の……」
「ぐっすり眠れましたよ。さて、マリアンヌはどこです?」
ウィリアムはいきなりそう尋ねた。村長なら、詳しい事を「話して」くれそうだ。
「……さあ、知りませんな」
当然、村長はごまかした。
「じゃあ、思い出させてあげます」
ウィリアムはそう言うと、素早く弓を構え、矢を広場でボール遊びをしている子供たちに向けて放った。
パァァァン!!!
広場中に破裂音が響く……。
矢が命中したのは、子供たちが使っていたボールだった。そのボールは、たちまち空気が抜けていき、ふにゃふにゃになった……。
ボールの持ち主らしき男の子は、呆然とした顔つきで、矢が刺さっている元ボールを拾い上げた……。他の子供たちは一斉に逃げ去る。
「思い出しましたか?」
ウィリアムが村長に平然とした顔で尋ねた。
「……知らない! 私は何も知らない!」
村長は肩を震わせながら言った。ウィリアムはため息をつくと、
「メアリー、あの子供を捕まえて、ここに連れてこい」
そうメアリーに命令した。
「……はい」