愛憎渦巻く世界にて
少し目立ちたがり屋なウィリアムは、名言にしたいセリフを思いついたらしく、ゆっくりと木炭の山の前にいる少年の横に立った。メアリーは、2人の後ろで見守っている。
「なあ、この村で何が起こったのか教えてくれないか? えーと、」
「……ぼくの名前はシャルルだよ」
シャルルという名前の少年は、あきらめた様子で、ウィリアムと会話することにしたようだ。
「シャルル。この村で何が起こったんだ?」
ウィリアムはほっと息をつくと、そう質問した。
「……突然、ゴーリ王国の連中がやって来て、村を襲ったんだ!」
シャルルは強い口調で説明を始めた。
「その連中は、挨拶でもするかのように、村のみんなを殺し回ったりした。そして、最後は火を放ったんだ!」
最後のほうは泣きそうだった。
「……それは災難だったな」
ウィリアムはそう言うと、肩に手をそっと置く。
「そいつらに復讐してやろうとは思っているか?」
ウィリアムは真剣な口調でそう問いかけた。シャルルは弱々しく首を横に振り、
「……母さんは、復讐なんて望んでいないと思います。優しい人でしたから」
しっかりとした口調でそう答えた。
「……そうか」
ウィリアムは感心した様子で、肩をトントン叩いた。そして、すぐに決心したという様子になり、
「それでは、この醜い戦争をやめさせたいとは思わないか?」
そうシャルルに告げた。
「え?」
シャルルは呆気に取られた様子で、ウィリアムをじっと見た。ウィリアムの目は真剣だった。ただ、彼らの後ろにいるメアリーは、今のウィリアムの発言に「え?」となっていた。彼女は予想していないことのようだ。
「なんとかするって、どうやって?」
シャルルは当然の質問をウィリアムにした。
「ウィリアム!」
メアリーがウィリアムにそう叫んだ。なぜか、メアリーは焦っていた。ウィリアムはメアリーのほうを向き、
「メアリー、大丈夫だよ」
そうメアリーをさとし、またシャルルのほうを向いた。
「私についてくるなら、教えよう」
「…………」
「…………」
シャルルはウィリアムの目をじっと見た。ウィリアムもシャルルの目をじっと見ている。
「……まあ、今すぐ決めろとはいわない」
やがて、ウィリアムはそう言って、メアリーのほうに戻っていった。メアリーはウィリアムを非難するような目で見ている。
「私たちは、西の道をゆっくり歩いている。決心したら、追いかけてこい」
ウィリアムはそう言うと、西に向かって歩き始めた。メアリーも、彼の後について歩き始めた。
シャルルは、黙って彼らを見届け、母親の焼死体をじっと見ていた。彼は何かを真剣に考えている様子だった。