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愛憎渦巻く世界にて

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 翌朝、ムチュー王国のその村は、何か所もある「木炭置場」と化していた……。木炭としてすべて売り払えば、一稼ぎできそうだ……。しかし、そんなことをする人間は1人もおらず、生き残った村人たちは、泣いたり怒ったりするぐらいであった……。

 「木炭置場」のうちの1つである元民家の前で、あの少年がぽつんと座り込んでいた……。彼の背後には、彼の家の瓦礫が山積みになっており、その中に焼死体が1つ埋まっている。コゲ臭いニオイと煙を放つそれは、言うまでもなく、彼の母親の亡骸であった……。
 母親は、幼い頃に父親を亡くした少年にとって唯一の家族だったため、少年は孤児となってしまった……。もちろん、少年にとっては、孤児となってしまったということより、唯一の家族だった母親を亡くしたということのほうがショックだった。
 少年はもう泣いておらず、ただじっと堪えている。だが、そこで微動だにせずに、そのままの姿勢だった。

「そこの君、泣きたかったら、泣けばいいじゃないか!? 泣いたって、損することはもう無いと思うぞ!?」

 突然、少年は背後から、場違いともいえる明るい口調で声をかけられた……。その声に、少年はゆっくりと振り返る。

 少年の後ろにいたのは、少年と同じ年頃の少年と少女だった。2人ともいい身なりをしていて、髪はきれいに整えられた黒髪だ。少年は、この辺りでは見慣れないタイプの弓矢を背中に背負っている。
「……余計なお世話だよ」
少年は2人にそれだけ言うと、また木炭の山と化した自宅のほうを見た。
「やれやれ、せっかくいい決めゼリフを言ったのにな」
黒髪の少年は、いかにも残念そうに、隣の少女に愚痴る……。
「……臭いです」
その少女はそう呟くと、口と鼻を両手で覆った……。
「そんなこと言うなよ、メアリー! 作者が即興で考えたとはいえ、いい決めゼリフだと思うぞ、私は!」
黒髪の少年は、メアリーという名前の少女に、強気の口調でそう言い切った……。
「違います。死体のニオイが臭いんです」
メアリーがそう弁解をすると、黒髪の少年は気を取り直し、木炭の山や死体とにらめっこしている少年に、
「おまえが今、不幸なのはわかる。だが、世の中には、おまえぐらい不幸な人なんて腐るほどいるんだ。たとえば、帰りたくても故郷に帰れなかったり、就職できずに留年する学生とか、仕事が合わなくて辞める新社会人とかな!」
そうドヤ顔で声をかけた。
「……ウィリアム様、どこの世界の話をしているのですか!?」
メアリーがツッコミを入れる……。この黒髪の少年の名前は、ウィリアムというようだ。

 その間、木炭の山の前にいる少年は微動だにしていない……。ウィリアムとメアリーは、どうしたものかと顔を見合わせていた。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん