愛憎渦巻く世界にて
シャルルたちはほっとしたが、馬車が猛スピードのまま、村に突入したので、すぐに青ざめた……。ウィリアムがスピードを緩める気配はなく、彼は頭をひねっていた……。
「止め方がわからない」
3人の耳に、ウィリアムのとんでもないセリフが飛びこんできた……。すぐに3人とも、ムンクの『叫び』に近いレベルの表情を浮かべる……。
馬車は猛スピードのまま、村の広場に入る。村人たちは、馬車を素早く避けた。
すると、目の前に、遊んでいる子供たちと談笑している年寄りたちがいた。どちらの背後にも壁があり、そこまで行けば馬車が止まりそうだ。しかし、どちらかを犠牲にしなければいけないっぽかった……。マイケル・サンデルからの問いかけレベルの究極の選択だった……。
「よし、年寄りにぶつけよう。損害賠償額は、年寄りのほうが安いらしいし」
議論が深まる前に、ウィリアムは結論を出した……。
馬車は、年寄りに向かって突っ走っていった……。年寄りは、おしゃべりに夢中で、馬車が猛スピードで、自分たちのほうへ向かって来ていることなど、気づいていない様子だった……。下手すれば、死んだことにも気づかず、あの世でもそのままおしゃべりを続けそうだ……。
「こうやって止めるんですよ!!!」
メアリーがウィリアムから手綱を奪い取り、すぐに急ブレーキをかける。
キキキキキキキキキ!!!!!!
土埃を上げながら、馬車は止まった……。年寄りたちは、馬のすぐ前だった……。年寄りたちは、おしゃべりを続けていた……。
「まったく、何を考えているんですか!?」
歩きながら、メアリーがウィリアムに、乱暴な運転について注意する。しかし、ウィリアムは適当に受け流していた……。
4人は、宿屋へ向かっていく。すっかり疲れていたので(ウィリアムは元気そうだが)、そこで一泊するのだ。
そして、ウィリアムを先頭に、4人は宿屋に入っていく。
「おや? こんなところに馬車なんかあったかいの?」
4人が宿屋に入っていった後、おしゃべりをしている年寄りたちのうちの1人が、ようやく馬車の存在に気づいた……。