愛憎渦巻く世界にて
ようやく、事の重大さに気づいたウィリアムは、眠そうなメアリーに、
「メアリー、防音壁に突っ込むぐらい酷い事故が起きるから、運転を交替しろ。今すぐにだ」
冷や汗を流しながら、そう言った。
「……誰にですか?」
目が充血しているメアリーが弱々しい口調でそう返事した。
「誰って……」
ウィリアムは、交替要員らしいシャルルとマリアンヌのほうを向いた。
「くぅーーー。くぅーーー」
「すーーー。すーーー」
シャルルとマリアンヌは、自分たちが危機の渦中にいることも忘れて、眠っていた……。『一応、交替要員が同乗していますよ』というレベルだった……。
ウィリアム以外の3人は、昨日から一睡もしていなかったのだ……。
「仕方がない。私がやる」
ウィリアムはそう言うと、メアリーから手綱を奪い取った。
「あっ、ダメですよ」
メアリーは目をしょぼしょぼさせながらそう言った。
「それ!!!」
ウィリアムはそう叫ぶと、馬車を猛スピードにした……。すごい振動が、馬車を襲う。
「キャ!!!」
「うわ!!!」
「ウィリアム様、やめてください!!!」
あまりの激しさに、シャルルとマリアンヌは飛び起き、メアリーは目を覚ました……。
馬車は、運転手が脱法ハーブでもやっているんじゃないかと思えるほどの猛スピードで、険しい崖道を疾走した。幸い、すぐに目の前に村が見えてきた。『ようこそ! チェンバレン村へ!』のような田舎臭い看板ではないが、小さな看板に『チェンバレン村』と書いてあった。
シャルルたちは、目的地である『チェンバレン村』に着いたのだった。