愛憎渦巻く世界にて
「どうですか?」
シャルルは振り向いて、マリアンヌのほうを向いた。
シャルルの目の前には、無駄に派手な王女の服から地味な平民の服に着替えたマリアンヌがいた。彼女は、頭をぶつけないようにしながら優雅に一回転して見せた。
「いい服です」
マリアンヌはニッコリしてそう言った。シャルルは、マリアンヌのその笑顔に、顔を赤くする……。
シャルルとマリアンヌとウィリアムとメアリーは、馬車に乗っていた。この馬車は、持ち主である馬面の男が死んだので、彼らが使うことにしたのだった。(なぜか、勝手に自分たちの物にすることに、反対した者はいなかった……。) 馬車を運転しているのはメアリーで、ウィリアムはシャルルの後ろで寝ている。太陽は高く昇っており、もう真昼だった。
馬車は、ムチュー王国とゴーリ王国との国境沿いにあるチェンバレン村という山村へ向かっていた。馬車が走る道は、石灰岩の山々が並ぶ険しい山道で、すぐ横は下が霞むほどの崖だった……。
マリアンヌが着替えた服は、馬車に積んであった物だ。マリアンヌの服装が、王女まるわかりの豪華な服装だったので、変装するために着替えたのだ。
「元の服は隠しておいてください」
シャルルが麻袋をマリアンヌに渡す。
「はい。あの、ティアラは隠し持っていてもいいですか?」
彼女にとって、頭のティアラは大事な物らしく、それを察したシャルルは黙ってうなずく。
「……眠い」
馬車の運転手であるメアリーがそう呟いた次の瞬間、彼女は仰向けに倒れそうになり、その拍子に手綱を思いっきり引っ張ってしまった……。
「ヒヒン!!!」
突然引っ張られた馬はビックリして、馬車が大きく揺れた……。
「キャーーー!!!」
マリアンヌが、女のお決まりの叫び声をあげた……。まあ、馬車が崖から落ちそうになったので、当然の反応である。
「おっと、危ない危ない」
我に戻ったメアリーは、眠そうにそう呟いた……。
マリアンヌが不安そうにメアリーを見ていたので、シャルルは、
「おい、ウィリアム!」
ウィリアムを起こすことにした。
「どうした?」
ウィリアムは静かに目を開け、上半身を起こす。
「メアリーさんが眠そうなんだよ。危ないから、なんとかしてくれ」
シャルルがそう頼んだ瞬間、また馬車が激しく揺れ、崖から落ちそうになった……。
もし、この高い崖から落ちたら、馬車やシャルルたちはこっぱみじんだろう……。