愛憎渦巻く世界にて
第5章 キュウソク
「ゲルマニア様!!!」
久しぶりの登場であるクルップが、ゴーリ王国の王城内の廊下を走っていた。鎧からうるさい金属音が鳴り響き、通りがかったメイドが迷惑そうな顔をしていた……。クルップは、ゲルマニアの私室に向かっており、彼女に何か重要なことを伝えようとしているようだ。
「うるさい!!!」
クルップが私室のすぐ近くまで来たとき、同じく久しぶりの登場であるゲルマニアが私室からすごい勢いで飛び出してきた……。よほど、クルップが走る音がうるさかったらしく、彼女は寝間着に着替えている最中だった……。着替えを手伝っていたメイドたちが慌てて、下着姿のゲルマニアを毛布で覆う。
クルップは、気まずそうに咳払いした後、
「ムチュー王国のマリアンヌ王女が、王城から抜け出したそうです。彼女に同行している人物の中には、タカミ帝国のウィリアム皇子がいるそうです」
そう報告した。それを聞いたゲルマニアは信じられないという表情をした。まあ、当然のことだろう。ゲルマニアが話を信じていないということに気づいたクルップは、
「ムチュー王国にいるスパイからの信頼できる情報です!」
真剣な口調でそう言った。ゲルマニアは納得した様子で、すぐ近くのメイドのほうを向き、
「私の装備を用意しろ!」
そう命令した。メイドは、「ハイ!」と言うと、他のメイドたちとともに、私室へ駆け込んでいった。
「出撃するぞ! 騎士団の連中を叩き起こせ!」
ゲルマニアはクルップに命令した。
「ハッ!」
クルップは笑顔で返事をする。
マリアンヌを殺せば自国の勝つため、彼はすっかり浮き足立っていた。ただ、ゲルマニアは、彼の態度が少し気にくわなかったらしく、
「喜ぶのはまだ早いぞ、クルップ! 生け捕りにしなくてはいけないのだからな!」
彼女はそう忠告をすると、着替えるために私室に戻っていった。
クルップは騎士団が寝起きしている宿舎に向かいながら、ゲルマニアが今言った言葉に疑問を感じていた……。
{殺すんじゃなくて、生け捕り? あの人は、たまに甘いときがあるからなあ……}
そう考えながら、クルップは走る……。