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愛憎渦巻く世界にて

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 地下室を横断し、なんとか王城側のドアの元へたどり着いたシャルルたち。この酷い臭いに、少しだけ鼻が慣れてしまったようだ。ハエが嫌いなメアリーは、わずかだが一息つけた様子だった。
「うまくいくといく事を願っていますよ!」
「国王陛下はご乱心らしいから、気をつけてくださいよ!」
王城へ出発するシャルルたちに、地下室の人々が激励を飛ばしてきた。彼らの期待
「じゃあ行くぞ。ここからは王城だ。静かに頼むぞ」
ゲルマニアはそう言うと、ドアノブを静かに回す。ドアの向こう側は王城だ。階段の上にあるドアを開ければ、拷問室がある。
 シャルルとゲルマニア以外は、あの拷問室は初めてだ。恐ろしい拷問器具が並ぶ光景を思い出すシャルル。とはいえ、今までの所業を考えれば、ウィリアムたちは平気だろう。


 拷問室へのドアも、ゲルマニアが開けた。王城を知る彼女が先頭のほうが安全だろう。シャルルは剣をまた見る。剣の扱いに慣れているわけではないが、いざという時はこれが頼りだ。
 拷問室は、以前と同じく薄暗かった。幸い、今回も誰もいない。誰かが拷問を受けているところへ、自分たちがやって来るという事態は避けられた。
 拷問器具は少しだけしか置かれていなかった。多くの器具が出払っているらしい。つまり、使用中ということだ……。
「誰かが使っているみたいだな。ここにはどんな道具が置いてあったんだ?」
ウィリアムがシャルルに尋ねた。
「……さぁね」
残酷な光景を思い出したくないシャルルは、適当に返事した。
 シャルルたちは、拷問室を後にする。拷問器具は王城のどこかで「使用中」かもしれない。

 王城の廊下を慎重に歩くシャルルたち。拷問室を出た一同は、謁見室へ行くことに決めた。ゴーリ国王に会うためだ。この不毛な戦争を、少しでも早く終わらせねばいけない。
 廊下に人気は無く、静まり返っていた。既に日没後で、窓から差し込む日光は無い。
 廊下にはロウソクの照明があったが、火が灯っていないロウソクが所々に見られた。燃え尽きているロウソクがあったり、風で消えてしまったままのロウソクがある。ロウソクを灯す係のメイドの姿はどこにも無かった。
 歩いていると、王城が異様な空気で満ちている事を次第に感じた。前述の通り、人気は無い。巡回の兵士やメイドと遭遇したり、見かける事も無かった。王城自体が死んでいるという感じだ。
「これはまずい雰囲気だな」
ゲルマニアが呟いた。嫌な予感を彼女は抱いていた。
「国王は、よその城へ移ったんじゃないか?」
ウィリアムが彼女に問いかけた。
「いや、それはないだろう。こんな事態なのに、名所の別荘へ行く事は考えられない」
「それもそうだな。安全を考えたら、この城に籠っているほうがいいからな」
「……国王以外は安全でないけどな」
廊下の先を見つめながら、ゲルマニアは言った。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん