愛憎渦巻く世界にて
「話を変えよう。他の神父も含めた教会側としては、私の事を支持してくれるのか?」
「失礼ですが、今後の成り行きによります。王室から教会への姿勢が現状維持でしたら、我々は反発しません」
「……今まで通りの金額で、寄付をよこせという事か?」
「恐れながら、その通りです。嫌らしい話ですが、先日の戦の後、王室からの寄付金がパッタリ無くなりました。民衆からの寄付金も激減です」
「王室も人々も、今は苦しい時期なんだろう」
荒涼たる城下町の光景を思い出すゲルマニア。あの状況では、お金に余裕がある人間は少ないだろう。
「わかった。もし私が国王の座を射止めたら、すぐに寄付金を回そう」
ゲルマニアがそう言うと、神父はほっと息をついた。どうやら、蓄えが残り少ないようだ。
「ただし、私への支持は絶対条件だ。いいな?」
「そ、それはもちろんです! 他の神父も必ずや、あなたへの支持を表明することでしょう!」
ゲルマニアの脅しに対し、神父がそう言った。彼女を敵に回したくないという思いが、顔と口調に現れている……。
ゲルマニアはもちろん、一同は一刻も早く、ゴーリ王城へ行き、国王を止めなければいけないと決心した。
神父との話を終えたシャルルたちは、教会内にある隠し階段を下りていた。ゲルマニアが先頭にいて、松明で足元を照らしてくれている。
教会の倉庫にある秘密の扉は、しっかり閉じてきた。もし追手が来ても、あの扉を見つけるのは困難だろう。頭をひねりながら、教会から出ていくに違いない。
「うっ、匂うな。湿っぽくて汗臭いぞ」
ウィリアムがぼやいた。
汗や膿が入り混じった酷い臭いが、階段の下から漂ってきていた。その臭いは、階段を下りるに連れて強烈になる。
「この階段の下にある部屋で、多くの人々を匿っている。今のうちに慣れておけ」
ゲルマニアが言った。彼女は慣れているらしく、鼻を押さえてないのは彼女だけだ。
「前より酷いぞ」
シャルルが言った。二度目である彼からしても、この異臭はキツイようだ。
強い臭いに釣られたらしく、ハエが何匹もブンブン飛びまくっている。階段を下っていると、ハエが顔に当たってしまう。虫嫌いらしく、メアリーが必死に両手を振り払う。この分だと、地下の大部屋は、ハエの大群だらけに違いない。だが、ここで引き返すわけにはいかなかった。
「ここ以外の道は無いの?」
「無い!」
メアリーの文句に、ゲルマニアは即答した。彼女にはガマンしてもらうしかない。