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愛憎渦巻く世界にて

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「その通りです。おまけに、ゲルマニア様がそれに関わっておられるのですからな」
神父が皮肉を言った。
 どうやら、先日の戦の詳細が神父にまで知れ渡っているようだ。すると、外にいる人々も詳細を知っているに違いない。それなら、ここは急がねばならなかった。教会内には、先日の戦で家族が戦死した者もいるはずだ。その者たちが、外の兵士たちに告げ口するのは、容易に想像できる……。

「国に背いたわけではない。兄君に背いただけだ」
ゲルマニアはそう言ったが、言い訳がましいことは、彼女自身わかっている。今のままでは、たとえゴーリ国王になったとしても、人々に反感を買うだけだろう。マイナスをプラスにするため、大きな功績が必要だ。
「私が父の元へ行けば、解決できるだろう」
「解決とは本気ですか? 裏切り者として処刑されてもおかしくないのですよ?」
わかっていた事とはいえ、神父は戸惑わずにはいられなかった。
「巻き添えで処刑は勘弁よ」
これはメアリーだ。タカミ人である彼女は心配するのは、もっともだ。下手すれば、次期皇帝であるウィリアムも容赦なく処刑されるかもしれない。
「安心しろ。私がそうはさせない」
ゲルマニアは、腰に吊り下げている剣の鞘を、ポンと叩いて見せた。すると、神父がため息をついた。
「ゲルマニア様、もし国王の暗殺を考えておられるなら、それはやめてください」
神父は、これ以上混乱が起きることを危惧しているようだ。
「安心しろ。暗殺までは考えていない。私は暴君志望ではないからな」
「あら、第1志望だと思ってたわ」
これはまたメアリーだ。
「我々教会側としては、さらなる社会不安は困ります。今でさえ、この有り様なのですから」
神父が、告解室の外を指差しながら言った。告解相手として、やはり相当疲れているらしい。
「剣を抜くのは、自分や仲間の身を守るときだけにするよ。約束する」
「……仲間? まさか、ここにいるムチュー人やタカミ人も、仲間だというのですか?」
神父は言った。
「そうだ。これでも仲間だ」
ゲルマニアがそう言うと、神父は顔に苦笑いを浮かべる。
 怪我人の変装をしていたので仕方ないが、シャルルたちをただの保護対象だと思っていたようだ。
「おかしいか?」
「いえいえ、失礼しました。まさか、ゴーリ人とムチュー人とタカミ人が手を結ぶなんて思わなかったもので」
「気にするな。いずれ、普通の事だと思うようになるさ」
ゲルマニアが言った。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん