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愛憎渦巻く世界にて

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「車輪がまだ不安な具合だなぁ」
「そうだな。これだとまだ車軸に負荷がまだかかりやすい」
馬屋の人たちは、車輪と車軸の調整をしていた。荷車の走り具合をチェックしているところで、試運転を終えた直後だった。そのため、馬と馬車は繋がっている状態だ。……ご都合主義的なタイミングだが、この際脇に置こう。
「また町へ行って、今度はピッタリの車輪を探してくるよ」
「それなら今度は、ワシも一緒に行こう。いくつか多めに持って帰れるしな」
「俺も探そう。東の門らへんにも、荷車がいくつかほったらかしらしいからな」
会話が終わると、声の主たちが馬屋から出てきた。最善を尽くしているらしく、汗だくの格好だった。彼らは、ブリタニアには微塵も気づかずに、王城の建物内へ入っていく。馬車につける代わりの車輪を、城下町へ探しに向かったのだ。
 城下町には、破壊された馬車があちこちに放置されていた。それらから、装甲馬車用の車輪を用意するのだ。どうやらまだ、合う車輪が見つかっていないらしい。パッと見、今付けられている車輪でも大丈夫そうだが、彼らプロの感覚だと合わないようだ。

{絶好のチャンスだわ!}
ブリタニアは、馬車へコソコソと向かう。馬車からは、話し声も人の気配もしなかったからだ。馬屋が無人の今は、装甲馬車を使うのには絶好のチャンスだった。
 しかし、合わない車輪でも構わないのか。何しろ彼女は、馬車のメカニズムについてなど、まったくの素人だ。車輪と車軸が合わない事なんて、たいした問題じゃないと思っているだろう……。
 彼女は元気よく、装甲馬車のドアを開けると、運転席にドシンと座った。
「綺麗に掃除してあるじゃない。感心ね」
彼女が褒めた事は清潔感だけだった。せっかく馬屋の人々が、古くなっていた運転台のイスを、新しいレザー(拾い物)に張り替えてくれたのにだ……。
「さあさあ動きなさい!」
以前見たビクトリーの操縦を思い出しながら、ブリタニアは手綱を握る。記憶が頼りなので、細かいやり方までは無理なはずだ。
 それでも、馬のほうは賢いのか親切なのか、とりあえず歩き始めてくれた。馬がブリタニアの事をいろいろと覚えていてくれたのかもしれない。
「行け行け!」
手綱を乱暴に振るいまくるブリタニア……。彼女は、歩きではなく走りを求めていた。それも徐々にスピードアップではなく、いきなり猛スピードを出せと、馬に要求したのだ……。
「ヒヒーン!!!」
怒りと焦りが入り混じった雄叫びをあげる馬。一頭立ての馬車なので、馬には強靭さが備わっていた。しかし、怖いぐらい威勢がいいブリタニアには敵わなかったようだ……。
 馬は息を荒立てながら装甲馬車を精一杯引き、馬屋や中庭から走り去る。もはや暴走状態だが、ブリタニアは嬉しそうな表情だ。走り出した拍子に、帽子が脱げ落ちてしまった事も全然気にしていない。
 そんなわけで、車輪と車軸の接続部分から、嫌な異音がすることなど、気づくはずがなかった……。異音だけでなく、嫌な振動も接続部分から時々発していたが、ご機嫌なブリタニアは、そんな事は全然気にならないようだ。この異音と振動こそが、馬屋の人たちが話していた問題だった……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん