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愛憎渦巻く世界にて

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「ほら、早く早く!」
ブリタニアはそう言って急かすと、ドレスを勢いよく脱ぎ始めた。一人で着替えられるの少し偉い事だが、それがけっこう乱暴な脱ぎ方なので、服が破れたそもそも原因が、そこにあるような気がした……。
 ブリタニアだけ服を脱いでいるのも変な具合だ。そのため、フィリップは覚悟を決めて、自分も服を脱ぎ始めた。しかし、彼は彼女と違い、一人で服を脱いだり着たりする事に慣れていない境遇だった。そのため、手の動きがぎこちなく、体のバランスを何度か崩してしまう有り様。例えるとそれは、人間に無理やり服を着させられた猿が、脱ごうと暴れているように見えた……。
 もう下着姿で待機中のブリタニアは、悪戦苦闘するフィリップに、呆れ笑いの表情を浮かべていた。この様子だと、ブリタニアからの男性評価で、フィリップは「中の下未満」という評価を下しているに違いない……。ムチュー国王は政略結婚として、彼とブリタニアが結ばれてほしいと願っている。しかし、初対面の今日からこれでも、その願いはどうなることやら……。

 そして、フィリップはようやく服を脱ぐことができた。
「修繕はぼくがいたします」
フィリップは言った。彼は下着姿の哀れな姿だ……。なにしろ、自分の服をブリタニアに渡したとき、被っていた帽子まで取られたのだ。
 ともかく、錠前などを分解するのが趣味な彼にとって、ドレスの修繕はいい機会であった。こんな機会は彼にとって、不幸中の幸いだ。もちろん、趣味として修繕を行なった末に、失敗などしたら、大変で面倒な事態になるわけだが……。


 ドレスを修繕するため、ブリタニアとフィリップは部屋に戻った。フィリップは、部屋の棚を片っ端から探して、針などの裁縫道具一式を用意した。それらは、ブリタニアの物ではなく、彼女の世話係であるメイドの物だ。ブリタニアの趣味や特技のリストに、裁縫なんていう高尚な事は入っていない。苦手な事のリストには入っているだろうが。
 そんな彼女を尻目に、フィリップはドレスをテキパキと直していく。彼の器用さは、裁縫の手縫いでも十分に発揮している。いろいろな意味で不器用な彼女は、彼をじっと見ている。
「けっこう上手じゃないの」
彼女は彼に言った。彼女が誰かを褒めるのは、よほど気分がいいときか、心の底からそう思っているときだけだ。今回の場合だと後者だろう。ただ、嫉妬の感情が少し混じっている。自分が苦手な裁縫を、彼はそつなくこなしているのだから、これは当然の反応だった。
「い、いえいえ。ありがとうございます」
フィリップは言った。ブリタニアが自分に対して、褒め言葉を口にするとは思っていなかったようだ。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん