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愛憎渦巻く世界にて

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第39章 コウジン



 ……ブリタニアは不満気な表情を、その小さな顔にしっかりと浮かべていた。頬を膨らませ、ブーブーと息を吐いていた。周囲に人がいるときは、当てつけでその表情を見せつける。ついさっきこの部屋に来たメイドは、気まずそうに苦笑いを浮かべつつ、部屋からそそくさと出ていった……。
 ブリタニアが今いる部屋というのは、ムチュー王城の貴賓室だ。ただ、「仮」の貴賓室だった。元は書庫として使われていた部屋で、ブリタニアの滞在を受け入れるために、急ピッチで整えられたものだ。ベッドなどの家具類は、先日までの攻撃で壊れずに残っていた物で、首都中から掻き集められた。しかし、あちこちから集めた物による内装のため、色合いやデザインはバラバラだ。また、窓はあるものの、元々日光が入り込まない方角なので、室内は薄暗いままだった……。とはいえ、戦明けの現状では、これでも立派な貴賓室だ。ウィリアムは、愚痴をこぼしていたブリタニアをそう言って、なんとか説得した。

 とはいえ、ブリタニアの不満の原因は、部屋のせいではない。原因は「退屈」だ。彼女は、時間を無駄に過ごしてしまっている損の感情を抱くとともに、復興のため多忙な周囲に対する疎外感も抱く状態だった。この疎外感は、現代日本社会で例えるとすれば、社内ニートが嫌でも感じるそれと同じ悲しい感情だ……。多忙な周囲と、時間が過ぎ去るのを待つだけのブリタニア。

 マリアンヌは復興への慰問活動で忙しく、ブリタニアの遊び相手をしている余裕は無かった。かといって、ブリタニアにも慰問活動をさせるわけにはいかない。まあ、彼女に似合う役目でもないが……。
 ただ、マリアンヌは彼女を放置する事に気が引けたらしく、自分の弟であるフィリップを、彼女の遊び相手として紹介した。
 非公式とはいえ、外交儀礼の一つだ。貴重な機会なので、父の国王は喜んで許してくれた。だが、フィリップ自身はというと、趣味を早く再開したかった……。彼は錠前などの小物を分解したりする事を趣味にしている。
 彼とブリタニアの間にある共通点といえば、同じ年頃という事や色違いの似たような髪を持っている事など、見た目に多い。身長も同じぐらいなのだ。
 とはいえ、フィリップは、自分がムチュー王国の後継者である事を、まだ赤子の頃から聞かされて育った。そのため、ブリタニアの暇つぶし相手とはいえ、大事な役割を任されたのだと、彼は十分に意識できていた。まだ10歳なのに、姉のマリアンヌ同様に立派な人間として成長している。

 そして、フィリップは、まだ残っていた自分のおもちゃを両手に抱えて、ブリタニアの元を訪れた。立派な人間である彼に対して、ブリタニアは訝しげで冷たい表情を浮かべていた。初対面とはいえ、彼が自己紹介をした後も、彼女の表情は少しも変化無しだ……。


「それで、何して遊ぶの?」
ブリタニアは冷たい口調で言った。それに対してフィリップは、自信満々な表情で、持参してたおもちゃを指差した。
「どういった類のおもちゃがお好きですか?」
彼が持参したおもちゃというのは、ぬいぐるみや人形といった、女の子に受けそうな物だけでなく、チェスやトランプといったゲームなどだった。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん