愛憎渦巻く世界にて
「…………」
しかし、ブリタニアはそれらを一瞥しただけで、フィリップに「新たな解決策」を要求する感じの視線を送る。
{う〜ん、どれも遊び飽きているか嫌いなんだな}
彼は悟った。だが、おもちゃと呼べる物は、今ここにある分だけだ。城下町におもちゃ屋は4軒あったが、どこも復興中かガレキの山と化している。おもちゃ職人を呼び出して作らせるにして、そんな時間的余裕が無いのは、もはや言うまでもないことだ。
ここは物ではなく、アイデアが求められる状況だった。責任感が強いほうであるフィリップは、ブリタニアを満足させるべく、そのアイデアを必死に考える。
「おままごとはいかがですか?」
「イヤ!」
最初に思いついたアイデアを、彼はすぐに彼女に提案したものの、速攻で却下されてしまった。とはいえ、提案した彼自身も、自分や彼女はもう子供じゃないのだからと、すぐに納得できた。さて、次のアイデアを考えなければ……。
フィリップは、頭を捻りつつ、部屋を歩き回る。そんな彼を、ブリタニアは暇潰しに観察することにした。それぐらい、他にやることが無かったのだ。
そんな彼は今、窓の外をじっと見ている。窓の外は王城の南側だ。水堀と道が左右に走り、道の向こうは城下町だ。人々が復興作業に汗を流していた。あまりの忙しさで、城の窓から王子のフィリップが見ていることなど、誰一人気がつかない。
彼はふと、首都観光はどうかなと思った。しかし、すぐにそれがダメなアイデアだと、自身の中で却下の判断を下す。
なにしろ今は、首都観光を楽しめる状況ではまったくない。敵がいなくなったとはいえ、どこもかしこも壊れたままだ。せいぜい、急ごしらえの露店が、ちらほらと営業しているぐらいだった。それに今は、人々が必死に復興に努めている状況だ。いくら外国からの客人といえども、明るく朗らかにブリタニアを歓迎する空気ではない。「不謹慎だ!」と非難する声が上がるほどではないにしても、呑気に遊び歩くのはまずいのだ……。
しかし、城下町での観光がダメでも、王城内での観光なら、そんなにまずくはない。フィリップは、生まれてからほとんどずっと、この城で暮らしてきたので、観光ガイド役は簡単にこなせるはずだ。また、先日の攻撃による危険個所も把握しているから、彼一人だけでも安全に、ブリタニアを案内できる。
彼は、城内観光が一番グッドなアイデアだと確信し、
「それでは姫、この城の中をご案内いたしましょう! まだ見ていない場所があるのではないでしょうか?」
自信満々に言った。
「……う〜ん。わかったわ。さっそく案内してちょうだい」
彼の申し出を、ワンテンポ置いてから承諾したブリタニア。彼女の承諾に対して、彼は嬉し涙を流しかけた。彼の脳内では、ちょっとした感動シーンというわけだろう……。