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愛憎渦巻く世界にて

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「この国を率いるとしても、これほど意気消沈した人々を、どうまとめればよいのだ……」
戦がメインの彼女は悩んでいた。

「ゲルマニア。何も戦だけが、王様の仕事じゃないと思うぞ。農民だった母は、農作業以外の仕事も時々やってたな」
シャルルの話を聞いたゲルマニアは、今までの人生を思い返す。
 幼い頃から騎士道で身を鍛えてきた彼女だが、よくいる脳筋キャラにはなりたくなかったらしい。そこで彼女は、王室付きの賢者に学問をきちんと教わった。とはいえ、楽しい思い出は皆無のようだ……。

「つまらなかった学問も、それなりに活かせるかもしれんな」
「うーん、じゃあ私も頑張ってみますか」
一応貴族の子息であるクルップも、そう決意したのだった。
「必ずや国を再興してみせるぞ!」
すっかり元気を取り戻したゲルマニア。実際の学力が、どの程度なのかはともかく、これなら大丈夫そうだ。
「我が国に手伝わせてくれ。責任が少しはあるからな」
ウィリアムがそう申し出た。
「……ほう、では頼むことにしようかな?」
負い目を感じたくないのか、ゲルマニアは軽く受け流した。


 大使館のすぐ近くで、馬車はバリケードに行く手を阻まれてしまった……。バリケードといっても、大きなガラクタで積み上げられただけの物だ。しかし、馬車では通れないし、徒歩で越えるのは目立ってまずい。
 そして、バリケードの周辺では、ゴーリ兵たちが展開している。どうやら、ゴーリ国とタカミ大使館の間で、緊張状態が起きているらしい。この様子だと、タカミ大使館に入るのは、危険極まりない行為だろう……。
「ビクトリーたちがゴーリ軍を攻撃した件も、伝わったのだろう。それで、この有り様というわけだな……」
一部隊とはいえ、タカミ軍による攻撃だと誤解されるのは当たり前だ……。
 しかし、事情を知らないタカミ大使館側は、そんな情報は嘘だとして認めない。ゴーリ側とタカミ側との間で、真偽を巡る言い争いが起きていることは、容易に想像できる。そのせいで、タカミ大使館は包囲されているのだ。
 とはいえ、タカミ帝国の強大さを恐れるゴーリ王国は、それ以上の事はできずにいた。また、この誤解は、シャルルには幸運だ。ゴーリ側は、タカミ帝国の後ろ盾があると思い、ムチュー人の彼には手出しできないだろう。誤解が解けませんように、彼は祈る。

「ここにいても怪しまれる。別の場所を教えるから、早く離れろ」
ゲルマニアの言う通りだった。現に何人かのゴーリ兵が、こちらを不審そうに見ている。このままだと、馬車を調べられそうだ。
「仕方ないな」
馬車はUターンすると、再び走り出す。
 バリケードから離れると、ゲルマニアがクルップに耳打ちした。その別の場所について教えているようだ。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん