愛憎渦巻く世界にて
シャルルたちの馬車は、首都への門の前で止まる。なにしろ、門が閉じられていたからだ。
「どうやら警戒中のようだな。門番を呼ばねば」
「私が話をつけてきますから、ゲルマニア様は中で待っていてくださいよ」
ゲルマニアがいつもの調子で行動しようとしたので、クルップが制止する……。
「すいませーん!!! 急いでるんだけど、早く開けてくれない!?」
馬車から降りたクルップは、門の覗き窓付近をノックする。
少ししてから、覗き窓がカタンと開き、門番の男が顔を見せた。男はめんどくさそうな表情で、クルップを見ている。
「負け犬を首都に入れるなという命令があってな。悪いが、しばらくはよそに行ってくれ」
そんなことを言われてしまった。とはいえ、実力行使に出るわけにはいかない。
そこでクルップは、うまく演技して、同情を誘ってみることにした。古臭い上に恥をかく危険があるが、ここはやってみるしかない。
「彼らは、負け犬なんかじゃないぞ!!! この国のために戦い、ケガをした者たちだ!!!」
彼は怒りながら叫ぶと、幌を開け、荷車にいる名誉の負傷兵たちを見せつけてやった……。もちろん彼らは、変装したシャルルたちだ。彼らは空気を読んで、激痛で苦しそうな声をあげてみせた。
門番の男は、罰が悪そうな表情になり、
「わかったわかった。お前らだけ特別に入れてやるよ。だが、誰にも言うなよ?」
そう言うと、門を開けてくれた。クルップの演技がうまくいったようだ。
門をくぐったシャルルたちの馬車は、タカミ帝国の大使館へ向かっていた。ゴーリ国王の元へ向かうための準備を、そこでするつもりなのだ。石畳を進む馬車の音が、高く鳴り響いている。
城下町は、悲壮感に打ちひしがれている雰囲気が漂っていた。家々の戸や窓は閉められ、たまに見かける町人は、いかにもトボトボという調子で歩いている。
自軍が、ムチュー王国首都での戦いに敗れたという情報は、人々にすっかり伝わっているようだ。兵士の帰りを待つ家族もいるし、勝利を信じていた人もいるだろう。そんな人々ばかりなのだから、首都が重苦しい空気で満ちるのは当然だった……。
「あの戦に負けた悔しさから、人々は奮起していると思っていたのだが……」
「よほど、ショックだったんでしょうね。……仕方なかったとはいえ、罪悪感が沸いてきましたよ」
幌からそっと顔を出したゲルマニアは、クルップと同じように、複雑な表情をしていた。もしかすると、ムチュー軍の指揮を取ったことに、後悔しているのかもしれない……。