愛憎渦巻く世界にて
「あの方法ならバッチリだ……」
「え? なんだって?」
シャルルの呟きに反応するゲルマニア。彼は何か思いついたようだ。もちろんそれは、ゴーリ王国にどう入るかについてだろう。
ニヤリと笑みを浮かべる彼は、ゲルマニアたちを手招きでコソコソ呼び寄せた。
とはいえ、頭の早いウィリアムはもう、シャルルの案を察知できているらしい。そのため彼は、その案に必要な物を集めようと、周囲をチラチラと見ていた。今いるのは城下町で、必要な物はすぐに集められるだろう。
――数日後の昼前、シャルルたちはすでにゴーリ王国内に入っていた。馬車に乗っている彼らは、ガタガタと山道に揺られている。
「もうすぐ首都が見えてくるはずだ」
クルップが後ろを振り向いてから言った。この馬車は操っているのは彼だ。幌付きの荷台には、シャルルたちが座り込んでいる。しかし、彼らは今までとは大違いの服装をしていた……。
「おーい!!! 首都まで乗せてくれよ!!!」
前方を歩いていた数人のゴーリ兵たちが、手を振りながら近づいてきた。シャルルたちの正体に気づいたわけではなく、首都まで相乗りさせてもらいたいようだ。スペースに余裕があるとはいえ、正体がバレやすくなる……。
「…………」
ところがクルップは、馬車のスピードを緩めてやり、ゴーリ兵たちが乗り込めるようにした。そのゴーリ兵たちは、これはラッキーだと嬉しそうに、荷台へ上がり込む。
「うわっ!」
「臭い!」
ゴーリ兵たちは顔を歪める。吐き気を催している者もいた。
荷台の中はとてつもない臭さで一杯だった。シャルルたちが、血や膿で汚れた包帯を身にまとっており、その匂いが充満しているのだ……。
シャルルたちは、ケガ人のフリをすることで、うまくやり過ごしてきたのだった。包帯のおかげで、顔などを隠すことができる。もちろん、馬車の帆には、ゴーリ軍のマークを縫い付けてある。
「や、やめとくよ……」
「邪魔して悪かったな!」
気まずそうに荷台から降りていくゴーリ兵たち。すると、スピードを再び上げる馬車。歩きのゴーリ兵たちは、はるか後方へ消えていく。こうして、シャルルの作戦はまた成功したわけだ。今回で7回目の成功だった。
とはいえ、ゲルマニアは罪悪感を抱かずにはいられなかった。出会ったゴーリ兵たちは皆、戦の敗走で疲れ果てており、彼女はその原因をつくったようなものなのだから……。彼女は心の中で、この戦争を終わらせたら、彼らを温かくいたわることを決意した。
そして、シャルルたちの馬車は、首都へ続く最後の丘を、勢いよくかけ上っていった……。あとは下り坂なので、難なく到着できるだろう。