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愛憎渦巻く世界にて

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「皆さん、よろしくお願い致します。いっしょに行けないことを、とても残念に思います」
マリアンヌは、これからゴーリ王国首都へ向かう一行に、言葉を投げかけた。王族らしい厳かな口調だが、寂しさを隠せていない。しかし、彼女の安全と泥沼化を防ぐためには仕方がないことだ。
「マリアンヌ様。今さらの話ですが、ティアラをお返しします」
シャルルはそう言うと、上着の内ポケットから、マリアンヌのティアラを取り出した。汚れてはいるが、目立った傷は皆無だ。今まで彼は、手荷物として彼女から預かっていた。
「まあ! 大事に持っていてくださったのですね!」
飛び上がって喜ぶマリアンヌ。彼女が今つけているティアラは予備で、シャルルが預かっていたのは大事なほうだ。
「これは10歳の誕生日プレゼントなんです。初めて頂いた王室の品になりますの」
彼女はティアラを交換し、予備を近くのメイドに渡す。
「感謝と成功を祈るため、キスをさせてくださいませ」
よほど嬉しいのか、調子に乗っているのか、マリアンヌはシャルルにキスを届けようとする……。途端に赤面したシャルル。
「マリアンヌ様!」
だが、すぐにメイドに注意され、彼女は諦めたのだった。
 最後に、一行はそれぞれ、マリアンヌに言葉を送る。気まずそうにだが、クルップも適当に言葉を送った。



 王城を出発したシャルルたちは、首都の外へ向かって、とりあえず歩いていた。なにしろ、ある問題の解決を話し合わなければいけないからだ。そのせいで、一行の足取りは自然と遅くなる。
「以前の成功例なのだが、肥やし屋はどうだろうか?」
「……すまないが、それだけは勘弁してくれ。汚物の臭いをまとって、ゴーリ国王に会うことになるかもしれないぞ」
ある問題とは、ゴーリ王国の首都にどうやって入るべきかということだ。
「そんな重い鎧を着てる時点で、汗臭いと思うわよ?」
「な、なに!? 身だしなみと鎧の手入れはきちんとしている!」
余計なことを言うメアリーと、脊髄反射的にキレるゲルマニア……。
「おいおい、さっそくの仲間割れなんてやめてくれよ」
シャルルは、二人をいさめつつも呆れていた。戦争を終わらせたら、この二人の不仲を解決するべきだなと、彼は考えているだろう。

「どいてくれ!!!」
「おっと!」
パッと横に動いたシャルルの横を、馬車が乱暴に走っていく。よほど急いでらしく、砂埃がモクモクと上がった。馬車の荷台にかかる幌は、内側から血で汚れまくっている。
「おい!!! 急いでいるとはいえ、気をつけろ!!!」
ゲルマニアが走り去る馬車に怒鳴った。しかし、車輪の音のせいで、聞こえなかったようだ。
「……まったく! いくらケガ人を運んでいるとは、あんな運転では、さらにケガ人が増えるぞ!」
ケガ人を運ぶ馬車だったようだ。きっと、危険な状態の者がいるのだろう。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん