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愛憎渦巻く世界にて

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第38章 キロ



「マリアンヌ様はまだ起こすな。あと、ブリタニアは絶対に起こすんじゃないぞ?」
熟睡中のマリアンヌとブリタニアを客室に残し、シャルルたちは謁見室へ向かう。もう例の書簡はできているはずだ。

 そして、彼らは、国王から書簡を受け取った。大事な書簡のため、上質な白い紙が使われている。
「では行ってまいるがいい。しかし、もう日が沈む。出発は明日でいいのではないか?」
「いえ、国王陛下。我々の出発が遅れれば遅れるだけ、どこかで不幸が生まれますので、すぐに出発いたします。ご忠告には感謝いたします」
ウィリアムが恭しく言う。いつもながら丁寧な物腰のため、シャルルは感心していた。
「今さらだけど、普段とはだいぶ違う調子だな」
小声でメアリーに話しかけた。
「いくら小国相手とはいえ、礼儀作法は忘れるわけにはいかないからね」
「小国って……」
「事実そうじゃない? あの国王は、我が国が味方になったと思い込んでいるみたいよ? 『虎の威を借りる狐』の状態ね」
謁見室の端で待たされていなかったら、小声でも話せないような内容だ……。
「思い込んでいる? ビクトリーたちが加勢してくれたじゃないか?」
「我が国は、あなたの国と同盟を結んでなんかいないわよ? あくまで、「個人」が勝手に行動したというだけだから。……まあ、書簡を書いてもらった立場だから言わないけどね」
「そ、そんな……」
「ゴーリの連中も勘違いしてくれていることを祈っておきなさい」
メアリーはそう言うと、あの書簡を保管するため、ウィリアムのほうへ歩いていった。

 シャルルは、タカミ帝国の後ろ盾が実際には無いことを知った途端、不安になった。なにせ彼も、ムチュー国王と同じように、タカミ帝国の後ろ盾があるのだと勘違いしていたのだ。もしゴーリ王国が勘違いなどしていなかった場合、一行唯一のムチュー人である彼は、その場で殺されるだろう……。
 マリアンヌといっしょに残ることにしておけばよかったと、彼はつい思ってしまう。ただ、それは無責任なことだと、すぐに自分を律する。そして、もうすぐこの戦争を終わらせることができるだと、明るく前向きに考えることにした。


 謁見室を出たシャルルたちは、先ほどの客室へ戻る。マリアンヌに別れを告げるためにだ。彼女とブリタニアは、まだ熟睡中だった。
「ブリタニアは、後で勝手に起きるだろうから放っておけ」
ウィリアムはそう言うと、マリアンヌの体にかかっていた毛布を、さっと取り除く。見方によっては、変な誤解を生みそうなワンシーンだ……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん