愛憎渦巻く世界にて
「シャルル様! 絶対に生きて戻ってきてくださいね!」
マリアンヌは、彼のすぐ横を歩きながら言った。彼だけでなく自分自身も、離れ離れになる不安で堪らないのだろう。
「もちろんですよ! 最後の最後に油断なんてしませんからね!」
シャルルは、元気良くそう応えてやったものの、ここに残るマリアンヌのことが心配だった。もしまた、王城のどこかに幽閉される羽目にでもなったら大変だからだ……。
「そんなやり取りは、死亡フラグでしかないぞ!?」
「おいおい、大声出すなって」
いつものように余計な事を口走ったウィリアムだった……。
メイドが案内してくれた部屋は、広い客室だった。数人の団体さん向けに用意されていた場所で、ゴーリ軍による攻撃の被害は少なく済んでいた。それでも窓は割れてしまっており、粉々のガラス片をどかす必要がありそうだ。
とりあえず、運んできたゲルマニアとブリタニアを、近くのベッドにそれぞれ寝かせる。
「マリアンヌ様。ご愛用の枕をお持ち致します」
「いえ、今夜はいらないですわ」
マリアンヌはメイドの申し出を断ると、ベッドへ飛びこんだ。そして、すぐに小さなイビキをかきながら寝始めた。あまりにも奔放な彼女に、メイドは当然驚いていた……。
「よほど疲れていたんだな」
「徹夜だったからな」
「そういえばそうだったな」
シャルルとウィリアムとクルップが口々に言った。三人の話し方には、眠気と疲れが感じられる。
「日没前に起こしてくださいね」
「は、はい」
さすがのメアリーも眠たそうだ。
……メイドが客室のドアを閉じるのと、シャルルたちが眠りにつくのは、ほぼ同時のことだった。満腹のブリタニアを除く全員が、すっかり疲れ切っているようだ。あちこちから、心地よさそうな寝息が聞こえる。