愛憎渦巻く世界にて
第4章 トウボウ
マリアンヌは、自由の身となることに決心した……。自由への渇望が、危険事への躊躇を越えたのだ。
もちろん、実際はまだ王城の中にいる状態だったが、彼女はシャルルたちなら、自分を自由の身にしてくれるという確信があった。この確信の根拠は言葉ではうまく説明できないが、少なくとも、作者であるやまさんに「おまえは、シャルルたちといっしょに行くんだよ。早く行けよ。じゃないと、物語が進まねえじゃねえか」とか言われたからではない……。
なんとなくというのが、正直な根拠であった。
「本当にいいんですね?」
シャルルの後ろにいるウィリアムが、マリアンヌに念押しをする。彼女はうなずいた後、
「よろしくお願いいたします」
優雅に頭を下げた。育ちの良さがわかる。
「シャルル、君がエスコートしてやれ」
ウィリアムはそう言うと、回れ右して、来た方向とは逆の方向へと歩き出した。メアリーは、シャルルたちに手招きすると、ウィリアムについていった。
「それでは、姫。行きましょう」
シャルルは笑顔で姫に言った。
「はい」
姫も笑顔でそう言った。
地下通路は迷路のようだった。ウィリアムは、通路が分かれるたびに、舐めた指で空気の流れを読んでいた。タカミ帝国の皇子である彼は、ここが、秘密の逃げ道であることを察知していたのだ。
「姫。もう1つの出口がどこに続いているのかはわかりますか?」
追いついてきたマリアンヌに尋ねた。
「いいえ。もしものときは、ここから逃げろということしか教わってません」
マリアンヌは申しわけなさそうに答えた。彼女は王女なのだが、この王族専用の脱出路がどこに続いてのかを教えてもらっていなかった。おそらく、彼女に余計な心配をさせたくないからだろう。
「王城や城下町の壁の外側なら最高ですけどね」
メアリーが服の中をまさぐりながら言う。彼女は服の中に何かを隠しているようだ。
「メアリー、それはまだしまっておけ」
それを見たウィリアムが言った。メアリーはまさぐるのをやめた。
「?」
シャルルとマリアンヌが顔を見合わせた。
「さて、ここがゴールのようだぞ」
しばらくして、ウィリアムがそう言って立ち止まる。しかし、彼の目の前はただの石壁で、行き止まりにしか見えなかった。