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愛憎渦巻く世界にて

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 国王から出された条件に、マリアンヌ本人が動揺したのは言うまでもない。
「お父様、そんな! 最後の大仕事なのに!」
「お前が行っても、話がややこしくなるだけだ! そんなことはわかるだろう!?」
国王の言うことはもっともだった。「相手国の姫を先に殺したほうが、大国と同盟を結ぶことができる」という決まりが無くなったとはいえ、マリアンヌの身の安全が保障されているわけではない。ゴーリ国王側が暴走し、マリアンヌに危害を加えたり拘束したりすることは、十分に考えられる。
「……わかりました。我慢します」
渋々とはいえ、さすがのマリアンヌも諦めるしかなかった。

 そんな彼女に、シャルルは罪悪感を持った。彼は以前、彼女を守ることを決意していた。しかし今は、事態の解決を優先してしまっている。身を守るために、彼女にここに残ってもらうとはいえ、守護の責任を放棄してしまったと、彼は思っているのだ……。
「マリアンヌ様、私も姫の分までしっかり役割を務めます」
そういうセリフを投げかけ、彼はこの罪悪感を少しでも和らげたのだった。
「よろしくお願いします」
彼女から発せられた返事は、なんとも寂しげなものだった。もしかすると、仲間外れにされているようだと、彼女は思っていそうだ……。

「よし条件を守ってくれたな。ではさっそく、書簡を用意させることにしよう」
国王はそう言うと、側近の一人に命令を下した。その側近は、大急ぎでダイニングルームから出ていく。
「念のため言っておくが、おまえたち。ゲルマニアには感謝しておくんだぞ? 私に書簡を用意させたのは、このゲルマニアの飲みっぷりに感激したからでもあるのだからな?」
国王の口調には、その感激の余韻が含まれているようだった。
「書簡は夕方までに完成させておく。おまえたちは、ゲルマニアを連れて、部屋で休め。まだ使えそうな客室があったはずだからな」
手の空いていたメイドに彼は、シャルルたちの案内を命じる。
 それからすぐに、彼は熟睡モードへ入った。満足気な寝顔だ。ゲルマニアとの飲酒競争が、よほど楽しかったのだろう。
「こんなお顔、久しぶりに見ますわ!」
マリアンヌは嬉しそうだった。寂しさが少しでも和らいだだろうか。

 宴が一段落をついた頃、シャルルたちはメイドに連れられ、ダイニングルームを後にする。ブリタニアはデザートを目一杯食べ、満腹で寝てしまっていた……。メアリーとビクトリーが協力して、彼女を運ぶ。酔い潰れているゲルマニアのほうは、ウィリアムとクルップが運んでやっていた。
「起こさないように慎重にな。絡まれて説教されたくないだろ?」
クルップは、こんな状態のゲルマニアの対応に慣れているらしい。今まで何度も苦労させられているという口ぶりだ……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん