愛憎渦巻く世界にて
浮足立つブリタニアと苦労人のビクトリーを連れ、シャルルたちは、王城のすぐ目の前まで来た。戦いが終わったので、城門は久しぶりに堂々と開かれていた。門番の兵士たちが、シャルルたちに嬉しそうに手を振ってきた。
城門をくぐり、王城の敷地内に入るシャルルたち。城内の庭で、避難していた人々が勝利を喜んでいた。存在がわかると大勢に駆けよられそうなので、シャルルたちはそそくさと城内へ入っていく。また、戦争がまだ終わっていないという現実があるので、素直に喜べないからでもあった。人々から歓待を受けるのは、この戦争を本当に終わらせてからだと、彼らは心に誓ったのだ。
「うわぁ! 絵本で見たお化け屋敷みたいなところね!」
城内に入った途端、ブリタニアが素直な第一印象を述べた……。
ゴーリ軍の猛攻撃のせいで、城内はいまだに荒れ果てているのだ。割れた窓から差し込む日光が、薄暗い廊下に舞うホコリを照らしている。
「ブ、ブリタニア様! 今は非常時ですから、こんなに荒れているんですよ!」
「あら!? 宴を開くのですから、前もって綺麗にしておくのが当然じゃないこと!?」
ビクトリーのフォローはあえなく打ち砕かれた……。彼女の声が聞こえてカチンときたらしく、必死に掃除中のメイドたちから、じろりと睨まれる……。
「ブリタニアの部屋も、よく物が散らかっているじゃないか? 片付けも掃除もしないし」
「ちょっとお兄様!!! なんとか機密の漏えいよ!!!」
ウィリアムのからかいに、ブリタニアはすぐに怒った。
「まあまあ、今度またいらしてください! そのときは、ピカピカの状態でお迎えしますから!」
マリアンヌが機敏に、勃発寸前のケンカを鎮静化してくれた。
「ああ、やっと見つけられました」
廊下の向こうから来た男が、ウィリアムに言う。
その男は、ビクトリーが使いに出した伝令だった。手にはまだ手紙が握られている。ビクトリーは焦り顔で、伝令の元へ駆け寄る。
「おいおい! 殿下に渡せていなかったのか!」
「すみません。首都に入るのにも時間がかかりまして」
ビクトリーは伝令から手紙を掴み取ると、その場でビリビリに破いてしまった……。驚いて目を見開く伝令。
「な、なにを? く、苦労して持ってきたのに!」
「『危険だから、この城にいてください』という内容だったんだ! だがもう遅い! お怪我がなかったから、良かったようなものの!」
ビクトリーは怒っていた。事の意味を知った伝令は、すっかり恐縮してしまっている。
いくらウィリアムとはいえ、自分たちにとって大事な存在であることには違いない。そんな彼を、危ない奇襲作成に参加させてしまったということは、とんでもない事でしかなかった……。