愛憎渦巻く世界にて
「しかし、そういう頑固者を早くなんとかしなければ、この戦争はまだまだ続くぞ」
ゲルマニアがシャルルたちに近づきながら言った。一同は、彼女のほうをそっと見る。そして、彼女がもう怒っていないことがわかると、胸をなで下ろしていた……。
「それならまず、ゴーリ王国の王をなんとかしなければならない。娘も同様だが、かなりの頑固者だからな?」
「その通りだ」
ウィリアムは嫌味で言ったつもりだったが、ゲルマニアの考えに的中していた。
彼女は、一刻も早く父親であるゴーリ国王を説得しなければならないと考えていた。
マリアンヌは父親を説得し、自分の命を助けるまでしてくれた。また、ここで起きた戦に対して、ゲルマニアは罪悪感を抱いていた。自分の父親と兄が仕掛けてきた戦である上に、言葉による説得ではなく、力による制圧に頼ったからだ。自分が説得に動いていれば、双方に犠牲が出ることを避けられたかもしれないと、彼女は振り返っていた。
「だけど、どうやって説得するつもりなんだ? ゲルマニアがムチュー王国の使いであることを証明しないといけないんだよ?」
シャルルの指摘はもっともだ。ムチュー国王に、ゲルマニアが交渉の代表者であること示す書簡を用意してもらう必要がある。それがないと、ゴーリ国王に相手もしてもらえないだろう。
しかし、用意できたとしてもその書簡は、ゲルマニアが反逆者であるという証になってしまう……。もしかすると、人づてで既に、ムチュー王国首都の防衛をゲルマニアが指揮していたという情報が届いているかもしれない。だが、その書簡は確実な証となる……。
ゲルマニアが書簡を見せつけた瞬間、ただでさえ短気なゴーリ国王が、激怒することは容易に想像できる……。剣を抜いて、斬りかかってくるかもしれない。
「……もし、父上たちと戦うことになっても、私は構わない」
覚悟を決めたゲルマニアは、静かにそう言った。彼女は、自分の剣を握りしめながら、兄君の死体を見つめていた。
「そこまで言うなら、ボクも付き合うよ」
「仕方ないな。これでフィナーレにしてくれよ?」
シャルルとウィリアムがそう言うと、ゲルマニアは慌てた。
「おいおい、私一人で十分だ! お前らがいたら、ややこしくなるだけじゃないか!」
「そんなの無謀よ! すぐカッとなるアンタだけじゃあ、すぐに交渉決裂だわ!」
「どうせオレも、反逆者扱いされているでしょうしね」
「ゲルマニアさん。ここまで一緒にやってきたのですから、今さらたいしたことではありませんわ」
マリアンヌたちも、口々にそう言い出した。ゲルマニアは、返す言葉が見つからない様子だ。
「……わかった、わかったよ! だが、交渉の代表者は、あくまで私だからな!?」
ゲルマニアは嫌々な表情を浮かべながら、シャルルたちの同行を許す。しかし、そんな表情の裏で、彼女は彼らに感謝の思いを持っていた。素直じゃない女である。