愛憎渦巻く世界にて
「ウィリアム様!!! 敵の司令官らしい者の死体を発見いたしました!!!」
ゲルマニアの怒りに、シャルルたちが凍りついていたところへ、ビクトリーが知らせを持ってきた。
「……お取り込み中でしたか」
的確な状況把握をしてみせたビクトリー。彼の目は、ウィリアムとゲルマニアとの間を、素早く行き来している。
「いや、よくあることだから、あまり気にしなくていい。それより、その死体のところへ案内してくれるか?」
「ええ、ついてきてください」
ウィリアムとメアリーは、ビクトリーについていく。つまり、この気まずい場から逃げることに成功したというわけである……。ゲルマニアを怒らせた犯人であるメアリーにとっては、渡りに船だ。
「あっ、ボクもいっしょに行くよ!」
「気乗りはしませんが、私もそうします」
「じゃあ、オレもついでに……」
その船に乗り損なってたまるものかと、シャルルとマリアンヌとクルップもそう言い出した……。
「はぁ……」
ゲルマニアはため息をつくと、シャルルたちの後をゆっくり追いかける。その兄君の死体について、一番よく知っているのは彼女なので、説明しないわけにはいかない。
しかし、死ぬまでの経緯がアレなので、彼女の足取りは遅かった……。歩きながら彼女は、どううまく説明すべきかを考える。
「そこの馬糞で転んだ後、背中をブスリか……。彼の不運は、大軍を打ち破られただけでは終わらなかったようだな」
兄君の死体を前に、ウィリアムを分析してみせた。シャルルたちは取り囲むように、その死体をまじまじと見下ろしている。もはやマリアンヌでさえも、死体を見ることに慣れてしまっていた……。
「国に帰られたとしても、どうせ処刑されるんじゃないですか? 王様の八つ当たり的な意味で」
「……まあ、よほどの理由が無い限り、そうなることが多いんだけどね」
メアリーの予想を、クルップは認めざるをえなかった。
「でも私なら、精一杯に戦ったのでしたら、たとえ敗北でも名誉あることだと思います」
「……それは建前ですよ、マリアンヌ姫。絶対に納得しない頑固者は、この世にいくらでもいます」
ウィリアムがそう否定すると、シャルルとマリアンヌは今までの出来事を思い出さざるを得なかった。
彼らが、相手に苦労した経験は、かなりあったといえるだろう。ムチュー王国およびゴーリ王国の国王に対してが、その代表格だ。