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愛憎渦巻く世界にて

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第37章 タヨリ



 戦に勝利したという知らせは、鍾乳洞にいるマリアンヌの耳にも届く。彼女はそのとき、負傷兵の救護に当たっていた。素人の腕前とはいえ、彼女なりに一生懸命働いていた。
「勝利だ!!! 勝ったぞ!!! 我々の勝ちだ!!!」
知らせを持ってきた兵士は、鍾乳洞の中を駆け回る。負傷兵たちは、痛みに苦しみつつ、勝利を喜んでいた。嬉し涙を流している者もいる。
「ごめんなさい! 後をお願いします!」
マリアンヌは、他の救護係にそう言うと、鍾乳洞から飛び出していく。戦闘に勝利したとはいえ、シャルルたちが全員無事だとは限らないので、彼女は居ても立っても居られなくなったのだ。



「あいつら、逃げているだけのゴーリ兵を、追いかけ回しているぞ……」
「やれやれ。放っておけばよいのにな」
「まあ、ついこのあいだまでやられっぱなしでしたからね」
シャルルたちは、戦闘後の安息を取っていた。仕事途中の小休憩のような雰囲気だ。もし彼らが喫煙者だった場合、タバコを吹かしているだろう。
「しかし、ウチの姫君はどこだ?」
クルップはキョロキョロと周囲を見回し、ゲルマニアを探していた。
「自分が殺した奴の耳を集めているんじゃないか?」
ウィリアムがいつもの口調でからかう……。

「皆さん!!! ご無事ですか!!!」
そこへ、マリアンヌがやってきた。全力で走ってきたせいで、前かがみで激しく呼吸している。
「マリアンヌ様! ここに来たらダメですよ! まだ敵が潜んでいるかもしれないんですから!」
シャルルは周囲を見回しながら、彼女を介抱する。
「あっ、ゲルマニアさんですよ」
彼女は息を切らせつつ、指をさす。その方向からこちらへ、ゲルマニアがゆっくり歩いてきていた。
「お前たち、無事でなによりだな」
「アンタ、どこに行っていたのよ?」
「ああ、敵の本陣に、ちょっと用があってな」
ゲルマニアの口調は静かだったが、虚しさもこもっていた……。
「ゲルマニアさん、用ってなんですか?」
「金庫でも漁ってきたの?」
マリアンヌとメアリーの問いかけに、彼女は「いや違う」とだけ、そっけなく返した。
「もしかして、戦利品を独り占めする気じゃないでしょうね?」
メアリーが意地悪な口調でからかうと、
「バカにするな!!! そんな卑しい用ではない!!!」
彼女はそう怒鳴り返した……。彼女の表情は、鬼のようなものと化している。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん