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愛憎渦巻く世界にて

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 もはや大混乱に陥ったゴーリ軍は、兵士たちが逃げ始める事態となった……。戦線の兵士たちだけでなく、波及する形で陣地の兵士たちも逃げ始める。踏まれて潰れるテント、放り捨てられる剣や鎧。
 今はもう、全軍が脱走兵と化したといえる状況なので、それを止める人間はいない。勝利を確信したムチュー兵やシャルルたちは、無様に逃げ行くゴーリ兵たちに同情し、笑顔で見送ることにした……。
 ただし、ゲルマニアだけは例外であった。彼女は一人で、ゴーリ軍の陣地へ馬を走らせる……。ムチュー軍の装備のため、兜を放り捨てていった。

 兵士たちが一斉に逃げ始めたものの、兄君と副官は彼らを止めることはしなかった。そんなことをしても、自分たちが逃げる時間の無駄にしかならないと悟ったようだ。すでにこの2人でさえも、この戦いを諦めたらしい。
「おい、寝室の枕を取ってこい!」
「枕なんて、城に戻れば、いくらでもあるじゃないですか!?」
「うるさい! あの枕は特別なんだ!」
兄君のテント内で、逃げる支度をする2人。必死に荷物をかき集めているが、それぞれの馬で運べる量かは怪しい……。重い貴金属が多いので、人馬が必要だが、必死に逃げる兵士たちにそれを頼めるはずはない。

   ビリリリリッ!

 突然、テントの布製の壁が斬り破られた……。剣の刃は、血で赤く濡れている。
「ゲ、ゲルマニア!!!」
「お久しぶりですね、兄君?」
破れた隙間の向こう側に、ゲルマニアが立っていた……。大混乱のおかげで、難無く陣地内に入れたのだ。
 突然の彼女の登場に、2人は目を丸くするしかなかった。
「おまえ! なぜここにいる!? ムチューの城にいたんじゃないのか!?」
まさか、ムチュー軍の指揮を取っていたのが、彼女だとは思いもしていなかったらしい。
「兄君にいい思いをさせるわけにはいかないので、それをぶっ壊して差し上げました!?」
堂々と言ってみせたゲルマニア。その言葉で察した2人。
「貴様! 自分の祖国をなんだと思っている!?」
「いいえ。祖国ではなく、あなたへ剣を向けたのですよ? まあ、理由は、あなたを殺したかっただけではないですが!」
彼女はそう吐き捨てると、剣で再び壁を斬る。あと少しで、ゲルマニアが通過できるようになるだろう……。
「ひぃ!!!」
「おい、おれを置いて逃げるな!!!」
2人は、大急ぎで逃げていく。よほど慌てていたらしく、逃げる先は出入口の無い寝室だ……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん