愛憎渦巻く世界にて
「後列、撃て!」
再び飛んでくる銃弾、倒れるゴーリ兵たち……。他のゴーリ兵たちは恐れおののき、戦うのを一旦やめて、隠れ場所を探し始める。少なくとも、彼らの敵であることは明白だ。
そんな彼らを尻目に、ゲルマニアは離れたところにある丘のほうを見ている。どうやら、彼女はもう「援軍」がいる場所を発見できているらしい。
その少し小高く丘で、ビクトリー率いるタカミ兵たちは、マスケット銃を構えていた。横2列に分かれていることにより、効率的に発砲をすることができるのだ。
「前列、撃て!!!」
放たれる銃弾。隠れようと右往左往しているゴーリ兵たちの息の根を止めていく……。
そして、撃ち終えた前列の兵士たちが装填をしているあいだに、後列が発砲する。そのうちの1発が、鉄製の盾を貫通し、持ち主の左胸の中で止まった……。ゲルマニアが持つような立派な盾だと厚いので、銃弾でも受け止められそうだが、兵士用の盾は量産仕様で薄いため、無理なのだろう……。
そんな銃弾を防げような隠れ場所は、この荒れ果てた戦場では少ない。放置された荷車や倒れた木の影ぐらいだ。
「オイコラ! 押すな!」
「もっと詰めろ!」
ゴーリ兵たちが、身を守ろうと必死に、押し合いへし合いを始めたのは、当たり前の展開であった……。隠れ損なったゴーリ兵は、タカミ兵たちに撃ち殺されていく。
正体を知らないとはいえ、強力な援軍がいることを知ったムチュー兵たちは、戦意を取り戻した。他人任せとはいえ、勝利への自信を持てたのだろう。
「今だ!!! 一気にかかれ!!!」
「そこの君! 矢を集めてきてくれたまえ!」
もちろん、ゲルマニアや他のシャルルたちが、この絶好の機会を逃すはずはなかった。ムチュー兵たちに発破をかけるゲルマニア。ウィリアムは矢を放ちまくるべく、近くにいた兵士に矢を集めさせる。
ムチュー軍やシャルルたちは、突破に向けての攻撃を全力で開始した。ゴーリ軍も、必死に応戦しようとするが、それは無理である空気が流れている……。
それからはいともたやすく、戦線の突破を実現することができた。ゴーリ軍は突破を食い止めようと、他の場所からの応援をさらに送り込んできたが、ムチュー軍の強力な援軍の手によって、次々に葬られていった……。
突破と同時に、戦線は崩壊の様相を呈した。ゴーリ軍は、ムチュー軍によって、2つに分断された形となり、指揮系統が狂ってしまったのだ。片方では徹底抗戦の指令が流れ、もう片方では一時退却という指令が流れてしまう始末だ……。