愛憎渦巻く世界にて
ゲルマニアが発見した、ゴーリ軍の戦線の弱点となる箇所には、戦闘経験の浅い兵士たちが配置されていた。今回の包囲作戦で呼び出しがかかるまでは、比較的平和な僻地で活動していたのだ。そのため、このあいだの門での戦闘の際でも、目立ったことはほとんどできずに終わった。つまり、危険な目に遭わずに済んでいたというわけだ。
しかし、そんな彼らは今、一転して、不幸な目に遭っていた。なにせ、ゲルマニアたちによる集中攻撃を受けていたからだ……。
振り下ろされる剣、飛びかかってくる矢、突き出される槍により、ゴーリ兵たちがどんどん死んでいく……。前述の通り、戦闘経験の浅い兵士たちなので、ゲルマニアたちは安全に殺すことができた。また、シャルルたちにとっては、ただの動く的でしかない。
そして、まだ生きている連中は、ゲルマニアたちの恐ろしい戦いぶりに震え上がりつつも、戦い続けようとする。彼らは、今回が大事な見せ場だと思ったおり、逃げることは考えていなかった。どうやら、愛国心だけはあるらしい。
そんな彼らにゲルマニアは、本気で堂々と戦うことで、誠意を示してみせることにした。ただ、他のムチュー兵たちは、漫然とした調子で、彼らと戦っていた。あまりにも楽な相手なので、気が抜けてしまうという感じだ。
ところが、ムチュー兵たちのそれは、状況が変わると、たちまち自分たちへの災いと化した……。
弱点を突かれていることに気づいたゴーリ軍が、応援の兵士をそこへ送り込んだのだ。彼らは、やられ続けている連中と交替するかのごとく、次々に戦い始める。一線級のゴーリ兵たちだった……。
それに対して、ムチュー兵たちは漫然と戦っていたため、そんな強敵にいきなり対応することができない……。今度は逆に、ムチュー兵たちがどんどん死んでいく……。
「まずい! このままでは、突破できん!」
盾で身を守りながら、ゲルマニアは顔をゆがませていた。彼女の盾は、激しい反撃のせいで、もうボロボロだ。また、ケガはしていないものの、馬には疲労が見られた。
ムチュー兵たちは、目の前の味方が倒れつつも、果敢に突撃を続ける。突破を諦めて、引き返したとしても、死期を遅らせただけになるのは明白だといえる状況だ。どうせ死ぬならと、彼らは、この突破を諦めるつもりはなかった。
「私もやめんぞ!」
「やれやれ、あの世まで付き合うことになりそうだな」
そんな彼らの強い意志に応えるべく、ゲルマニアや他のシャルルたちも、諦めずに戦う意思を持っていた。
「前列、撃て!」
突然、声が聞こえたかと思えば、ほぼ同時に発砲音が鳴った……。そして、銃弾が勢いよく飛んできて、ゴーリ兵たちに襲いかかる。
「な、何事だ!?」
「どこから飛んできた!?」
ムチュー兵やゴーリ兵たちは、ともに狼狽えるしかない。
だが、心当たりのあるゲルマニアとクルップは、ひそかにニヤニヤと含み笑いを浮かべていた……。