愛憎渦巻く世界にて
ゲルマニアは馬上戦闘に一区切りをつけると、投石器などの兵器を破壊することにした。
実際に戦場で運用するまでに、多大な労費と時間を要する兵器を破壊できれば、敵へのダメージは大きいものになるだろう。また、兵士たちが投げやりになって、首都への攻撃を始めてしまう可能性もある。
「借りるぞ!」
「え?」
ゲルマニアは、敵のゴーリ兵から松明を奪い取る。その敵兵は、あっけにとられた様子を見せていたが、次の瞬間、クルップに首を斬り落とされてしまう……。
投石器などの兵器は、移動をやめている。運び手である兵士たちが、自分の身を守るために戦わなくてはならなくなったからだ。
「どけーーー!!!」
松明を片手に持つゲルマニアは、もう片方の手で剣を振り回しながら、立ちはばかる敵兵たちを蹴散らしていく。今の彼女の狙いは、彼らの後ろで立ち往生している兵器だ。
「それっ!」
兵器の近くまで来ると、彼女は松明を投げた。火の粉を出しながら飛ぶ松明の先には、投石器が鎮座している。
投げられた松明は、投石器の骨組みの中に落ちた。木製の投石器に、たちまち燃え移る。
「うわっ」
周囲にいた敵兵たちが離れていく。戦闘中のため、消火する余裕など無い。
投石器の綱が、ブツンと火で切れる。その綱は、発射の際に切断するもので、セット済みだった岩が発射されてしまった。首都の城壁へ向かって、弧を描いて飛ぶ岩。
ところが幸いなことに、低めの角度に設定されていたおかげで、城壁には届かなかった。届いたのは、ゴーリ軍の兵士たちの頭上だ……。岩に押し潰されるゴーリ兵たち。ギリギリで避けられた兵士たちに、潰された者たちの血が飛び散る……。
ゲルマニアは、投石器の炎上を確認すると、騎乗戦闘を再開した。まだ投石器などの兵器が残っているが、それだけに熱中するのは危険であるし、必死に戦っている他の者たちに失礼だ。それに、兵器を使える兵士を殺してしまえば、どちらにしろ兵器は無力化できる。
奇襲に遭う形となったゴーリ軍は、ムチュー軍にやられつつも、防御態勢を整えつつあった。やぐらも無い即席のものだが、襲いかかるムチュー兵たちを押し止めることはできた。シャルルたちの矢や銃弾も、うまく防がれてしまう。
これで膠着状態に入ったわけだが、長期戦は大軍であるゴーリ軍のほうが有利である。ゲルマニアは、すぐに打開策を考える必要がある。
その一方で、ゴーリ側の兄君と副官は、安全な陣地へ逃げていた。必死に防戦する兵士たちを尻目にでだ……。その姿を目撃した兵士たちは、あからさまに侮蔑の表情で、2人を見届けていた。