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愛憎渦巻く世界にて

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「この部屋にですか……」
「採光用の窓もありませんね」
ウィリアムとメアリーが、ドアのそばからある部屋の中を眺めていた。
「なぜか懐かしく思えてきますわ……」
「ほんとですね」
シャルルとマリアンヌもいた。

 彼らが眺めているのは、マリアンヌが閉じ込められていた地下室だった……。秘密の抜け道へ向かう途中に、少し寄り道してみたのだ。
 マリアンヌが、開戦直後からシャルルに助け出されるまで過ごしていた地下室は、掃除がされていただけで、あとの家具類はそのままの状態であった。どうやら、マリアンヌをいつでも迎え入れられるように準備をしていたらしい……。
「どんなに素晴らしいインテリアでも、この地下室では台無しだな」
率直な感想を述べたウィリアム。彼はメアリーと共に、部屋の中を興味深げに見て回り始めた。
「あのときはビックリしましたわ。料理かと思ったら、シャルルさんだったのですから!」
「他に隠れる場所が無くて……」
楽しそうに語るマリアンヌに、シャルルは少し気まずい様子だった。なにせ彼は、料理が乗っているはずのカートから飛び出す形で、彼女と対面したのだから……。

「おいおい!!! そんなところで何やってるんだ!? 置いていくところだったじゃないか!」
このクルップの呼び声で、シャルルたち4人は我に返った。今は感慨にふけている場合ではない。しっかりしなければ、あの世で、この地下室に幽閉されるような苦しみを味わることになりそうだ……。



 ――そして、合流したシャルルたちは、奇襲作戦の兵士たちと共に、いわゆる「秘密の抜け道」である鍾乳洞を進む。転倒や敵の察されないよう気をつけるため、走らずに歩く。ゆっくりとした足取りだが、国を守ろうとする強い意志が、彼らの足には込められていた。
 彼らの照らす松明の数が多いため、洞窟内は明るかった。そのため、彼らは止まることなく進むことができる。馬もおとなしく付いてきてくれている。この様子だと、洞窟を抜け次第、すぐに奇襲作戦を始められそうだ。もっとも、ゲルマニアは最初からそのつもりだったが。
 そして、前哨のため、兵士数人を先行させている。しかし、特に合図が送られてこないから、安心することができた。どうやら、ゴーリ軍は、この洞窟の存在に気づいてもいないようだ。もし気づいていたとしても、まさか王城に直接通じているとは思ってもいないことだろう。

 しかし、ゲルマニアは少しも油断していなかった。今の彼女からは、決死の戦いに赴く真剣さと覚悟だけしか感じられない……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん