小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

愛憎渦巻く世界にて

INDEX|236ページ/284ページ|

次のページ前のページ
 


「おいおい! そんな調子じゃあ、こっちは困るよ!」
隊長を叱ったのは、あの兄君の副官だった。どうやら、兄君の近くにあまりいたくないため、巡回という名の散歩をしていたようだ……。ただ、自分の命にも関わる状況なので、やる気の無い隊長を叱らないわけにはいかなかったようだ。

 念のためか、敬礼をする隊長とゴーリ兵。
「これはこれは、副官殿! 申し訳ありません!」
隊長はそう返事をしたものの、棒読みな口調であった……。
「……まあいい。ところで、あのタカミ人は何者だ? 後がめんどくさいから、問題を起こすなよ?」
副官は、アゴ先で伝令を指し示した。
「あの男は、タカミ帝国からの伝令だそうです。この状況にも関わらず、あの街に行きたいそうです」
「預かったナイフの鞘に、タカミの国旗が刻まれていたので、変な奴ではないと思います」
隊長とゴーリ兵の話を聞いた副官は、「そうか」とだけ言って、どうするべきかを考えた。

{伝令があの首都に入るには、1人分とはいえ、どこかの扉を開ける必要があるな。そして、敵は伝令や我々を警戒するために、その扉付近に、兵力を集中させるに違いない。そのスキに、防御が弱くなった他の場所を攻撃すれば!}

 副官は、あの伝令を攻撃のタイミングとして利用するつもりだった。あの兄君は、できるだけ早い決着を望んでいるので、この機会を逃すわけにはいかなかった。
「許可してやろう。もしかすると、タカミがムチューに、我々への降伏を勧める文書かもしれないしな」
そのため、副官が許可を出したのは当然のことであった。
 ただ、可能性は低いものの、本当に降伏勧告の内容だった場合、後処理をめぐって面倒になることは確実だった。その可能性も踏まえ、今回の機会を確実かつ迅速に活用しなければならなかった。
「では、許可を伝えてきます」
ゴーリ兵が伝令の元へ歩いていくと同時に、副官は兄君の元へ大急ぎで向かった……。



「気をつけて降ろしてやれよ。馬にも万全でいてもらいたいからな」
ゲルマニアは、馬の手綱を引いている男に言った。馬は、狭いらせん階段を慎重に降りている。
 その馬は、彼女の臨時的な愛馬で、これから彼女といっしょに奇襲をかけるのだ。彼女の馬だけでなく、他にも数頭の馬が、この奇襲作戦に参加することになっていた。といっても、生き残りの馬がこれだけしかいなかったのだ……。
 あれからゲルマニアは、マリアンヌから地下通路の話をさらに詳しく聞き、馬を連れていける余裕があると判断したのだ。ただ、スペースがギリギリだという事情で、移動に時間がかかっていた。
 それでもゲルマニアは、馬を急かすことはしなかった。どうしても彼女は、万全の態勢で、この戦に望みたかったのだ。いざというときに、乗っていた馬がダメになっては万事休すである。クルップも苦労して、馬を誘導していた。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん