愛憎渦巻く世界にて
もちろん、戦争そっちのけで遊んでいるわけではないが、自分たちが命拾いするための策を練っていることには違いない……。
大臣たちは気にもしていなかったが、今まで国を担ってきた国王は、重厚な罪悪感を感じていたのだ。そして、その罪悪感を解消できない現実が、今の嫌気を生み出している。
そんな罪悪感や嫌気への、せめてものの抵抗として、国王はゲルマニアの行動を認めることにしたのだ。ただの自己満足に過ぎないが、自殺に追い込まれるまでに悪化することはないだろう……。
――ビクトリーから送り込まれた伝令役の兵士は、ゴーリ軍の陣地へ近づいていく。もちろん、危険な目に遭うのを避けるため、ゆっくりと慎重にだ。わざと目立つように、松明を持っている。
「おい止まれ!!!」
それでも、伝令の存在に気づいたゴーリ兵は顔を強張らせていた。松明の火を向けられつつ、おとなしく立ち止まる伝令。
そのゴーリ兵は、陣地の警戒に当たっており、いきなりの訪問者に緊張していた。その訪問者がタカミ人であることには、すぐに気がついたものの、臆するところを見せるつもりはなかった。
「何の用だ?」
「タカミ帝国の一団からの使いだ。あの街に入りたいのだが、誰に話を通せばいい?」
もちろん、伝令のほうも緊張していた。母国よりも弱い国の兵士とはいえ、余計な面倒事に巻き込まれる恐れは十分にある。彼が優先すべきなのは、ビクトリーが書いた手紙を、ウィリアムがいると思われる首都へ届けることだ。
「武器は持ってないだろうな? もしあるなら、こっちに寄こせ」
「もちろんだ。……ああ、すまない。護身用のナイフを腰にさしている」
伝令は上着を軽くめくり上げ、腰にある小さなナイフを見せる。そして、そのナイフを鞘ごとゴーリ兵に渡した。
「よしついてこい」
ゴーリ兵は伝令を、直属の上官である隊長の元へ連れて行くことにした。とても自分では、判断できないレベルのことだからだ。
「なに? タカミ帝国からの伝令だと?」
伝令のことを聞いた隊長は、めんどくさそうな表情をしていた。たき火の近くにいた彼は、イスに座って、もう1つのイスに両足を乗せてくつろいでいた。どうやら、兵士だけでなく将校に至っても、士気が低下しているらしい……。
「ええ、あの街に行かなければいけないから、このまま通せと言っています」
先ほどのゴーリ兵は、少し離れた所にいる伝令を指差した。
「やれやれ、別に見て見ぬフリしてもよかったんだぞ?」
無気力そのものという感じの口調だ……。