愛憎渦巻く世界にて
奇襲作戦への志願者を募るため、シャルルたちは王城の中庭に行った。そこは、兵士たちの待機場所となっていた。周囲が建物に囲まれているおかげで、敵軍からの攻撃を受けにくかったからだ。
兵士たちの心情は、しつこい攻撃に嫌気が差しているか、戦うことができずにイライラしているかのどちらかであった。荒れ果てた草木の中で、それらが濃厚に渦巻いている……。
「兵士諸君!!! 少し話を聞いてほしい!!!」
ゲルマニアは、兵士たちに呼びかけた。
彼女に注目する兵士たち。彼らは立ち上がり、彼女のほうへ体を向ける。このあいだの防衛戦のおかげで、すっかり彼女を信頼しているらしい。
「敵軍に奇襲をかけようと思う! それも正面からではなく、死角からの不意打ちでだ!」
彼女がそう言うと、兵士たちは歓声をあげた。また輝かしい勝利を得ることができるのだと、彼らは興奮しているようだ。
「……ただ1つ聞いてほしいことがある」
正直に話すことにした彼女。
「この作戦は、国王陛下からの承認を得られなかった。そのため、国のバックアップは無いと思ってほしい」
彼女がそう言うと、兵士たちがざわつき始めた……。
当然の反応だった。もし生還できたとしても、国から褒美が出ることはないのだ。もし戦死しても、補償すら得られないであろう。最悪の場合、国家反逆罪となる恐れもある……。
「だから、無理強いするつもりはない。志願制を取る。志願してくれるものは、武器を掲げるか、挙手をしてくれ」
言い終わった彼女は、兵士たちを眺め始める。ただし、威圧感を与えないよう、視線を合わせたりはしない。じっと黙って、反応を見守るのだ。
「……大丈夫かな?」
さすがにシャルルも、不安になってきた。良い反応が返ってくるとは、とても思えなかったからだ。もし自分自身が兵士だったら、志願しないだろうとすら思えた。
……しかし、すぐにその不安は、いい意味で無駄に終わる。兵士たちが次々に、剣や槍を頭上に掲げたり、手を高く挙げ始めたのだ……。
彼らは、国の兵士としてではなく、民の兵士として戦う覚悟を決めたらしい……。