愛憎渦巻く世界にて
「国王陛下! 良案をお持ちしました!」
ちょうどそのとき、ゲルマニアが謁見室に入ってきた。彼女のタイムリーな登場に、大臣は飛び上がりそうになる……。
「りょ、良案とは何だ?」
彼女に尋ねる国王。
「数で勝るゴーリ軍に大打撃を与えるための奇襲作戦です!」
「……そ、そうか」
まさか、話し合いによる解決を考えているとは言えなかった。
「それは先ほどお聴きしましたが、とても良い案とは思えませんぞ!夜闇に紛れたとしても、正面からでは無駄死にで終わるだけです!」
飛び上がりそうになった者とは別の大臣が反対した。軍事的観点からならば、ゲルマニアが怒らせることはないだろうという考えたらしい。このままうまく却下に持ち込めば、余計な争いが起きることは避けられるだろう。
「まさか、先ほどと同じ案を、そのまま進言しに来たと?」
しかし、ゲルマニアは全く怯む様子を見せていない。
「なに? 知ってのとおり、首都の周りは完全に包囲されているのだぞ? まさか、空を飛んだり、トンネルを掘ると言い出すのではないだろうな?」
どうやら、あの「秘密の抜け穴」のことは、この大臣でさえも知らないらしい。知らないフリの口調でもなかった。それほどの機密情報を、マリアンヌはペラペラと喋ったというわけだ……。
「……おい!!!」
さすがに国王は、察しが早かった……。
「……確かに、あの地下道を通れば、敵の不意をつくことができる」
そして、納得したように頭を振りながら言った。
「では、この案を了承していただけますね?」
ゲルマニアは、大臣たちが余計なことを言い出す前に、国王の許しを得たかった。
「いや、悪いが了承できない」
しかし、国王は許してはくれなかった……。
彼は、良案を前にしても、交渉を第一優先とする方針を変える気になれなかったのだ……。不意打ちが決まったとしても、大軍の撃退にまで至るとは、必ずしも言えなかった。もし失敗しても、交渉のテーブルはもう存在しない……。後は、ただ死を待つ身だ……。
「なぜですか!?」
国王に詰め寄るゲルマニア。
「これ以上の犠牲を出すわけにはいかないのだ」
「不意打ちによって、犠牲は最小限に抑えられる! このあいだの防衛戦のようにな!」
「はっきり言わせてもらうが、このあいだの件は、ただの奇跡だ!」
国王はそう言い捨てた……。