愛憎渦巻く世界にて
「他の誰かには、もう提案したのか?」
ウィリアムが尋ねる。
「ああ、もちろんな」
「ついさっき、ムチュー軍の将校たちに提案してみたが、危険すぎると突っぱねられた」
ゲルマニアとクルップが、肩をすくめつつ答えた。
「そうだろうな。全戦力と言っても、勢いで力押しできるほどの余裕は無い。真正面からの奇襲では、無駄死にで終わるだけだろう……」
ウィリアムは、現実論を述べるしかなかった。
「やっぱり、おまえたちも危険だと思うか……」
ゲルマニアは、無理強いしないつもりらしく、奇襲を諦め始めました。
「ちょっと待ってください!!!」
ところが、マリアンヌが突然叫んだ。どうやら、何か思い出したらしい。
「何かいいアイデアを考えたんですか?」
「ほら! この城には地下道があるじゃないですか! 逃げ出すときに使った!」
彼女は、シャルルに思い出させようとした。
「あの洞窟のことですね! 出口は、首都から少し離れた森の中でした」
幸いなことに、彼はすぐに思い出してくれたようだ。
「明かりさえあれば、誰でも普通に歩ける道だったな」
「私も思い出しました」
どうやら、ウィリアムとメアリーも思い出してくれたらしい。
その頃、城内の謁見室では、ムチュー国王と大臣たちが話をしていた。
「敵軍からの返事は、まだ来ていないのか?」
「それが国王陛下。送り込んだ使者との連絡も途絶えまして……」
「なんだと!? それではつまり、取引する気はさらさら無いというわけか!?」
「……どうやら、そのようです」
実は国王たちは、ゲルマニアはもちろん、シャルルたちに内緒で、敵のゴーリ軍との交渉に入ろうとしていたのだ。今まで大見栄を張っていたものの、厳しい現実にやられてしまったらしい……。
もはやこの戦争に、元々の大義は無く、ゴーリ軍も喜んで取引に入るだろうという見込みがあったのだ。しかし、それは甘かったらしい。いまだに続く攻撃が、それを表している……。
「ああ、どうしたらいいのだ……」
頭を抱える国王。マリアンヌが見たら、情けなく思うだろう。
「ゲルマニアを解放してはどうでしょうか?」
「……おまえが彼女の説得をしてくれるか?」
「い、いいえ!」
冷や汗を浮かべる大臣……。