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愛憎渦巻く世界にて

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 兄君は堂々とした様子で、演説台である木箱の上に立つ。どんな話が始まるのかと、兵士たちは息を呑んだ。ただ、副官は不安そうに、木箱の隣りに立っている。
 演説を始めようと、深呼吸をする兄君……。

「諸君! これがゴーリ軍の戦か!? ゴーリ軍は、いかなる場合でも、戦わねばならないのだ! ゲルマニアに対する情が無いなどは、戦いを放棄する理由にはならぬ! ゲルマニアが死んでも、私がいるではないか! 我々ゴーリ人には、ただものならぬ勇猛さがあるということを、決して忘れてはならない!」

 兄君は、ただ一方的にそう言った……。文章化していないが、実際は噛みまくりのひどい喋り方をしていた……。とにかく、上記の演説を、兄君は自信満々でしたのである。
「…………」
兵士たちは、反応に困っていた……。一応次期国王の演説なので、ブーイングを飛ばすことなどできない。しかし、逆に歓声を上げることも、心理的にできずにいた……。演説会場は、静寂の空間と成り果てた。
「ゴホンゴホン!」
気まずくなった副官は、哀れな兄君のために咳払いをして、兵士たちに反応を促した。

「ウォーーー!!!」
「ワーワー!!!」
ワンテンポ置いて、兵士たちは大きな歓声を上げる。ただし、言葉が見つからないらしく、勇ましい掛け声だけだ……。
「よしよし」
とりあえず納得した兄君は、テントの中に戻っていった。一安心できた副官は、額の冷や汗をぬぐい、兄君の後を追う。


「……殿下。ほんの少しばかりですが、過激な話になっていましたよ」
控えめな言い方で、副官は演説の感想を述べた。
「そんなことはないだろう! 父上の演説を参考にしたのだから、おかしなところなどないはずだ!」
「それはそうですが……」
「そんなことより腹が減った! 昼飯の支度をさせろ!」
聞き耳を持たない兄君は、副官に促した……。


 演説を聞き終えた兵士たちは、元の配置に戻った。首都への攻撃は、すぐに再開された。
 先ほどの演説のおかげで、なんとなく戦意を高揚させた様子を見せる兵士がいたが、それは一部の者に限られた。ほとんどの兵士は、狐に包まれた様子で、逆に戦意を低下させていた……。
 士気を上げる目的だった演説は、完全に逆効果で終わったというわけだ。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん