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愛憎渦巻く世界にて

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 ゴーリ軍は、ムチュー王国首都の包囲網を維持できていたものの、兵士たちの士気は低下していた……。理由は、ゲルマニアを見殺しにする攻撃に嫌気が刺すからだ。兄君に対する反感が、兵士たちの間で公然と沸いていた。
 また、ひたすら続く攻撃に飽き飽きし始めているからでもあった。高く頑丈な外壁に遮られ、自分たちの戦果を実感できないことからだ。
 陣地内に漂う反感と閉塞感を、兄君の副官は嫌でも感じ取れた。ただ、あの兄君に、このことを報告するのは気が引けた。しかし、それらは日に日に増していったため、仕方なく報告することにした。

「だからなんだ?」
報告を聞いた兄君は、まるで他人事のように言った……。忠実であるはずの兵士たちが、次期国王である自分に歯向かうはずがないと、たかをくくっているのだろう……。間抜けの代名詞のような男である……。
「不満の解消のために、ゲルマニア様の救出作戦を検討してはどうでしょうか?」
具体的な案はまだ考えていなかったものの、副官は提案した。
「ダメだダメだ。時間の無駄に終わる」
兄君は、その提案を却下した。どうしても、このどさくさに紛れて、ゲルマニアを死に追いやりたいらしい。
「しかし、他に士気を維持する方法はないのですよ!」
このままでは自分の身も危ういと感じた副官は、ここで食い下がった。
「……方法は他にもある」
「え? それはなんでしょうか?」
少しは知能があるのかと、副官は感心した。
「兵士たちに、私が呼びかけるのだ! 私の言葉を聞いた彼らは、奮い立つことだろう!」
兄君は、自信満々にそう言ってみせた……。言葉に詰まるしかない副官……。当然だが、否定することも笑うこともできない。
「すぐに演説の準備をしろ!」
兄君の命令を受けた副官は、仕方なしに準備を始める。


「いったい何の話だろう?」
「休戦になったのかな?」
「いや、使いが来たことはないはずだぞ」
兄君のテントの正面に集まった兵士たち。彼らは突然、攻撃を止められて、ここに集められてきたのだった。荒野を通る強い風が、彼らに吹きつける。
 あの副官は、木箱を持ってきて、テントと兵士たちの間に置いた。簡易の演説台というわけだ。兵士たちが集まり、準備が整ったことを確認した副官は、テントの中に入っていった。
 それからしばらくして、兄君がテントから出てきた。彼は、偉そうな晴れ着姿をしている。こういうときのために、わざわざ国から持ってきていたのだ……。

作品名:愛憎渦巻く世界にて 作家名:やまさん