愛憎渦巻く世界にて
第34章 ダカイ
何十本もの矢が、空気を切り裂きながら空を飛ぶ。また、いくつもの岩が、矢を追いかけるように飛んでいった。
我が物顔で空を飛ぶそれらは、ムチュー王国首都の城下町に落ちていく……。家々の屋根に突き刺さる矢、屋根そのものを破壊する岩。粉塵が舞い、町中を漂う。
首都を包囲しているゴーリ軍は、昼夜問わず、激しい攻撃を行なっていた。まるで渡り鳥のように、矢や岩が外壁を飛び越えてくる。
建物への被害は、時間を追うごとに増えていったが、人的被害は少なく済んでいた。なぜなら、城下町の人々は、王城の中に避難していたからだ。
人々の保護を提案したのは、マリアンヌであった。混乱を防ぎ、秩序を維持できると、彼女が国王を説得したのである。幸いなことに、収容するスペースはギリギリ足りた。
ただ、いつまでも王城に閉じこもっていることは不可能だ。水や食糧の備蓄には限りがある。城下町にも農地はあるが、そこも攻撃を受けており、農作業などできたものではない。
シャルルたちも王城に避難しており、彼らはそこでケガ人の手当てなどを手伝っていた。外壁の警戒のため、兵士が危険な目にあっているのだ。
ウィリアムとメアリーは、この首都にもあるタカミ大使館に避難することもできたのだが、あえてそうはしなかった。その代わり、医薬品を少し分けてもらってきた。当然のことだが、皇子であるウィリアムは、半ば強制的に保護されかけた。しかし、なんとか言いくるめることができたらしい。
「……このままでは、餓死を待つだけだぞ」
一休みをしているとき、ウィリアムが呟いた。両手は、手当による血で汚れている。
「敵は、こちらが折れる形で、交渉に入ることを待っているのでしょう」
メアリーも呟く。血と膿で汚れた包帯を洗っていた。
「あのゲルマニアが、戦うの諦めるとは思えないよ」
シャルルは言った。両肩の筋肉痛が苦しそうだ。無言でうなずくウィリアムとメアリー。
シャルルは、両腕を上げてあくびしつつ、外壁の上の空を眺める。ちょうど岩が、外壁を飛び越えてきたところだった。その岩は、王城には届かず、城下町のどこかへ落ちていく……。