愛憎渦巻く世界にて
報告のため、王城へ向かうゲルマニアとクルップを、兵士や民衆が取り囲んだ。ひとまずとはいえ、ゴーリ軍を撃退できたことに、彼らは感謝していた。
とはいえ、ゲルマニアとクルップは、元々はゴーリ軍の騎士だ……。複雑な表情にならざるを得ない2人。
2人とも馬に乗っていたので、取り囲んでいる人々を蹴り飛ばさないよう、慎重にかき分けて進む。そのため、なかなか進めない。
……そんなとき、ゲルマニアは捕虜の1人と目が合う。その捕虜は、降参への抵抗を見せた敵兵であった……。
「…………」
監獄行きの馬車に乗り込む直前の彼は、ポカンと口を開けて、ゲルマニアを見ていた……。まるで、奇妙な幻を見ているかのような目つきをしている。
自分たちと同じゴーリ人であるはずのゲルマニア姫が、敵国のムチュー人から感謝されている光景なのだから、彼の反応は当然であった……。
「…………」
ゲルマニアは彼と目が合った途端、巨大な罪悪感を抱いた……。しかし、彼から目をそらすしかなかった。
ようやく、人混みから抜け出せたゲルマニアとクルップ。だが人々は、それでもつきまとってくる。
「クルップ、急ぐぞ!」
ゲルマニアはそう言うと、馬を一気に走らせた。馬は、猛スピードで走れることに喜んでいるようだ。ゲルマニアはそれを感じ取り、さらに速く走らせる。
ただ、本当は一刻も早く、捕虜となったムチュー兵たちの視線から逃れたかったからだ……。
――ゴーリ軍の陣地内のテントで、兄君は目を覚ます。このテントは、彼専用のものだ。兵士たちが突入作戦を敢行している中、彼は昼寝をしていた……。
彼が起きたのは、陣地が急に騒がしくなってきたからだ。
「おっ! もう片付いたのか!」
自分が司令官であるにも関わらず、まるで他人事のような口調だった……。彼は、ふかふかのベッドから起き上がると、窓から眺める。
「よ、様子が変だぞ……」
くたびれた兵士たちを見て、さすがの兄君も、何か悪いことがあったことに気づいた……。
「殿下!!! 連中にしてやられました!!!」
彼の副官が、テントに駈け込んできた。額には汗が浮かんでいる。
「どういうことだ!? あの数だぞ!」
敗北を知った兄君は激怒した……。自分たちが余裕な勝利を収めると、心の底から信じていたようだ。