愛憎渦巻く世界にて
「よし!」
ゲルマニアは馬を走らせながら、何かを決意したらしい。
「おい、おまえらも攻撃するんじゃないぞ!」
彼女は後ろを振り向き、クルップたちに言った。
「え?」
疑問に思うしかなかったものの、従うことにした。
彼女は、敵兵の1人に急接近すると、その男が構えていた剣を、自分の剣で弾き飛ばした。落ちた剣が、地面に突き刺さる。
「……あっ」
その敵兵の喉元に、馬上のゲルマニアは、剣をビシリと突きつけていた……。いつでもそのまま刺し殺せる。
「降参しろ」
しかし、彼女は降参を求めた……。
やはり、自分の手で直接、かつての味方を殺すことはできないらしい。しかも彼らは、自分の父親によって戦わされているようなものだ。
「わ、わかったよ」
その敵兵は、怯えながら両手を上げた。
「おい!!! 最後まで戦わないか!!!」
近くにいた仲間の敵兵が怒鳴る。そして、捨て身の勢いで、ゲルマニアに突進していく。剣は高く構えられている。
「ゲルマニア姫!!! 離れてください!!!」
クルップが、彼女の助太刀に入る。
「待て!!!」
ところが、彼女は彼を制止した。同時に、剣の向きを素早く変える。
ガキン!!!
剣で攻撃を受け止めたゲルマニア。普通の兵士なら、とても間に合わないようなガードだった。
「ゲ、ゲルマニア姫だと?」
その敵兵は、剣への力を抜くと、後ろに数歩下がった。
彼は、攻撃を防がれてしまったことよりも、彼女がゲルマニアだと知って驚いている。すぐ近くで、両手を上げたままにしている敵兵も、ただ驚いていた。2人とも、道端で神様に出会ったような表情を浮かべている。
「そうだ」
彼女はそう言うと、ヘルメットを外してみせた……。長い金髪、大きな青い瞳が、敵兵たちにさらけ出される。
「おおっ!!! ゲルマニア様だ!!!」
「なんで、ムチュー側にいるんだ?」
顔を見合わせる敵兵たち。
「いろいろあったのだ。だが私は、ゴーリ人としてのアイデンティティーは捨ててはいない!」
裏切り者呼ばわりされることは覚悟していたが、そう弁明せずにはいられなかった……。
「頼むから降参してくれ。君たちを無駄死にさせたくない」