愛憎渦巻く世界にて
陣形を組んだ敵兵たちは、その場でじっと耐えていた。何枚もの鉄製の盾が、隙間なく掲げられ、ときどき飛んでくる矢を跳ね返す。
「増援を待つしかないな」
陣形の中心で、指揮官はつぶやいた。
この状態では、門を塞いでいる破壊槌をどかすことはもちろん、柵やバリケードを突破することもできない。下手に動かずにじっとしているしかないだろう。
「そんな! 突撃で一気に片をつけましょうよ!」
「このままジリ貧です!」
ゴーリ軍の兵士には、せっかちな者が多いらしい。居てもたってもいられずに、盾の力を緩め始める者すら出てきた。
バァーーーン!!!
そこに、メアリーの銃弾が勢いよく飛んできた……。
「うわ!」
強力な銃弾は、力が抜かれていた盾を弾く。そして、その勢いをほとんど保ったまま、陣形の中に飛びこんだ……。
「ぐえ!」
「イテェ!」
銃弾は、敵兵たちの体をどんどん貫いていく。自分たちの盾が、銃弾を何度も跳弾させているのだ……。
ようやく銃弾が動きを止めたときには、陣形は崩壊していた……。何人もの敵兵が、血を流して倒れている。
「陣形を立て直される前にやれ!!!」
ゲルマニアは、心の中でメアリーの活躍に感謝しつつ、兵士たちに命令した。
再び攻撃が激しくなり、何十本もの矢が空気を切り裂く。必死に逃げ惑う敵兵たち。いつの間にか指揮官は戦死しており、統率は失われていた……。
ある敵兵は、柵を壊したり乗り越えようとしたが、柵の向こう側から槍で刺殺される……。別のある敵兵は、仲間の死体の中に隠れようとしたが、その死体ものとも、矢の的と成り果てた……。
もちろん、敵側は反撃した。ただし、矢の嵐をかいくぐりながらなので、たいした戦果にはならなかった。たとえば、柵の向こう側から体に突き出されたとき、その槍を強く引っ張り、いっしょに引っ張られてきた間抜けな兵士を剣で刺し殺すという感じだ。大半が偶然の戦果と言えるだろう。
しかし、偶然の作用をバカにしてはいけない。破壊槌が行動不能に陥ったのだって、偶然によるものだ。
「射手止め! 我々でケリをつける!」
敵兵たちが残り20人足らずになったところで、ゲルマニアが、クルップと騎兵たちを連れ、突撃を開始した。
勇ましい蹄の音が鳴らす馬。ゲルマニアの脳裏に、ゴーリ時代の思い出が、次々に思い浮かんでいった。それらの思い出の中には、今は敵であるゴーリ兵たちが、嫌でも映り込む……。